4月 172016
 

このブログに移行してから、しんちゃんの話題に触れるのは初めてかもしれませんが、私はクレヨンしんちゃんが大好きです。

私はコアなファンだとは言わないけれども、幼い頃から20年以上愛し続けている唯一の作品がクレヨンしんちゃんであり、かなり思い入れが強いです。しんちゃんだけは毎年必ず観続けています。私の価値観にも大きく影響があったと思いますが、「人間の面白さ」「人間の魅力」を受け入れやすい形で幅広い世代に伝えていけるのが、この作品の強い魅力なのかなと今は思います。クレヨンしんちゃんでしかできない絶妙なバランス感があると思うんです。

さて、昨日4月16日に公開となった、2016年の映画「クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃」を初日のお昼に観てきました。とても良い映画でした。個人的に、かなり理想的なしんちゃん映画なのではないかと思います。

しんちゃん映画については、過去に長々と感想を書いたこともありましたが、なんやかんや忙しくてやめてました。ロボとーちゃんのときは書こうと思ってたんだけど。今ならまあ落ち着いているし、私の頭もスッキリしているので都合がよいかと思い、久々に感想を書こうと思いました。長々と。

重大なネタバレは避けますが、ある程度は話の内容に突っ込んでいきます。事前情報なしで観たほうが面白いとも思ってますので、ユメミーワールド気になるって人は是非、映画館で観てきてください。

鑑賞前

しんちゃん映画を観ること自体は毎年決まってることなので、特に事前情報を集めるとかしません。また、今回はテレビアニメのほうの録画がたまっていて、十分にプロモーションに触れていませんでした。CMを観て「今度は夢の世界が舞台か」と思い、ポスターを見て「ロボとーちゃんの高橋監督と劇団ひとりの共同脚本は面白いことになりそうだ」と思いました。私が持ってた情報はそのぐらい。

で、夢の世界が舞台ならば、ヘンダーランドのようなヘンテコな世界での冒険劇になるのかなと安直に思いました。夢の世界を荒らす悪いヤツがいるとか、夢の力を悪用する悪いヤツがいるとか。どちらにせよ、きっとかすかべ防衛隊が中心となる話なのでしょう。実際は、後者に少し近いですが、想像したものとはかなりギャップがありました。

ちなみに、パンフレットによると、シナリオの大筋を劇団ひとりさんが作って、そこに高橋監督らが「しんちゃんらしい」脚本になるよう協力していったという制作進行だそうです。骨太なシナリオとしんちゃんらしいおバカさの融合です。

あらすじ

気持ちよく夢を見ていた野原一家。しかし、全員が夢の中に現れた巨大な夢魚に飲み込まれ、「ユメミーワールド」に飛ばされてしまう。目が覚めた野原一家は、みんなの夢の中に同じ夢魚が現れるという不思議な現象が起きていることを知る。それは野原一家だけではなく、春日部市民全員に共通していることだった。

それ以来、春日部市民は眠るとユメミーワールドへと辿り着くようになり、そこで自分の望んだ夢を見られるようになる。しかし、次第にそれは悪夢へと変わり、大人たちは真っ先に悪夢にうなされるようになる。街の住民がみな悪夢にうなされるという「悪夢症候群(ナイトメアシンドローム)」が春日部にも訪れたのだった。

一方、ふたば幼稚園では、サキという女の子がひまわり組に短期入園した。サキはかわいい容姿からすぐに「友達になろう」とチヤホヤされるが、「バカとは友達になれない」と一蹴して誰も寄せ付けない。しかし、そんなサキを気に入ったネネは、「サキのことを絶対に嫌いにならない」と約束し、サキをかすかべ防衛隊に迎え入れる。そして、新生かすかべ防衛隊は、春日部を悪夢から救うため、ユメミーワールドの謎を突き止める決意を固める。

サキが抱える秘密とは?ユメミーワールドとは何か?悪夢の正体とは?

すべての謎を解き明かすべく、かすかべ防衛隊が寝る。

悪夢にどう立ち向かうか?

今作では、「夢」という題材を、ただ舞台設定として用意するだけではなく、作品テーマとしてもっと突っ込んでいるものでした。

子どもは自由で、夢を見る力を備えています。但し、夢には「良い夢」と「悪い夢」がある。もし「悪夢」が襲ってきたとき、子どもたちはどうする?

そう、今作は「悪夢との戦い」がメインの話として描かれます。この描写が実にホラー色が強くて、「ユメミーワールド」というファンシーなタイトルから直感的に想像できないような、重い話が展開されます。これが鑑賞前とのギャップで、かなり面食らった人がいるんじゃないでしょうか。でも、鑑賞後はきっと満足されたことでしょう。

ユメミーワールドの謎が徐々に明らかになっていくと、最後にはついに「悪夢の正体」が判明し、最終決戦を迎えます。この伏線の張り方、決着のつけ方が非常に丁寧かつ秀逸で、メッセージ性が強く、胸打たれるものがありました。悪夢に勝つということはどういうことなのか。悪いヤツをやっつけて終わり、なんて甘いものではありません。そこにひとつの結論を導く、熱い友情と家族愛の物語です。ちなみに今作に悪いヤツはいないです。

そして、「悪夢」を乗り越えたしんのすけが見る夢が、そのままエンドロールとなります。ケツメイシの歌う「友よ~この先もずっと…」の歌詞がマッチして、とても感動的なエンディングに仕上がっています。

この結末を!たくさんの人に観てほしい!!

心理学的な要素を含んでおきながらも、クレヨンしんちゃんのフォーマットで親しみやすい娯楽作品となっています。結末を子どもたちがちゃんと理解するのは難しいかもしれませんが、ちょっとでも親の見方を考えるきっかけになれば、この作品は十分に仕事をしたといえるでしょう。頭の片隅に残って、数年後に意味が出てくるかもしれません。一から十まで理解できなくていい、考えるきっかけを与えることが大事。大人としては、「母」について考えさせられ、唸ることでしょう。

クレヨンしんちゃんらしさ

ここまで書いてきたとおり、今作はとても怖い話です。でも、ずっと悪夢のような話が展開されるわけではありません。ユメミーワールドの謎を少しずつ丁寧に解き明かしながら、常にギャグを挟むことを忘れません。これが良い緩衝材となっていて、よく笑って、よく緊張して、よく泣ける、そんなバランス感の作品にまとまっているのです。そして、いつだって結論は単純で、だからこそ説得力があります。とても優しくて、力強い、これこそまさにクレヨンしんちゃんだと思いました。

しんちゃんの映画って、主要な要素は決まっていながらも、作品ごとにどのぐらいの比率で各要素を取り入れていくかがバラバラだと思います。ギャグに突き抜けたヤキニクロードがあれば、シリアスに突き抜けた宇宙のプリンセスがあれば、ホラーに突き抜けた踊れアミーゴがあります。これらは極端な例だと思うんですが、この3要素のバランスがとても大事だと思っています。これらを抑えておけば、各作品の作風の違いを吸収して、作品ごとに楽しみ方を見つけられるんじゃないかなと思います。人によって評価が割れたりするのはここじゃないかなと。

ユメミーワールドはというと、ギャグ・シリアス・ホラーの3要素をすべて取り込んでいて、どれに偏るでもなく上手く組み合わせています。

ギャグは遠慮なく攻めていて、下ネタは凄いしグリグリ攻撃だって自重しない。批判上等なクリエイティブ魂を見せてくれます。恐れなくキレッキレのギャグをきっちりやって、子どもから大人まで笑かせてくれます。一方で、ホラー演出だって抜かりなく、しかし演出のために物語と尺を犠牲にすることもなく、物語に必要なアクセントとなっています。そして、シリアスとしては、友情と愛情の両方を取り、過去のトラウマと向き合う成長物語にまとめあげる巧妙さ。これだけ欲張っていて破綻しない構成力には感服です。ギャグによって間口は広くしておきながら、感情を揺さぶるフックがたくさん用意してあります。この絶妙なバランス感覚は今までなかったかもしれません。新鮮です。

悪夢の怖さを体感するためにも、劇場に足を運んで観るべき作品かなと思います。これは小さい画面ではいけない。

オラが寝るから大丈夫!!

作品によって、しんちゃんが背負う役割も描かれ方も変わってきたと思います。基本的に、しんちゃんは純粋で、自分の感情に従って行動します。だから、迷わない。そして、良い意味で鈍感で、その自由な発想でハっとさせられるような選択を示します。この自由気ままさが子どもらしさとヒーロー性を両立させていると思います。たまに子どもらしい弱さを見せる作品もありますが、今作は精神的な意味でヒーロー性が強いです。

かすかべ防衛隊もついには悪夢に直面して、全滅しかけ、ユメミーワールドの正体を知らされ、大人であろうと絶望しそうな状況ですが、それでも、しんちゃんは動じません。どんなことがあっても、しんちゃんにとってサキちゃんは大事な友達です。

「オラがサキちゃんの夢をお助けするゾ」

それまで自分を呪って塞ぎ込んでいたサキちゃんが、そのまっすぐな言葉についに動かされます。自分が本当は何を望んでいるのか、初めて自覚的になり、しんちゃんと行動を始めます。しんちゃんがかっこよすぎて震えましたね・・・。このあたりはスパイ大作戦とも共通しますね。しんちゃんに感化されて、1人の少女が自分の殻を破る。サキちゃんのこれまでの発言はしっかり伏線になっていて、心理描写がとても上手いです。

一度バラバラになったかすかべ防衛隊ですが、再び決意を固めて眠りにつき、悪夢との最終決戦へと旅立ちます。夢を見る力の弱い大人たちは見送ることしかできない。こんなにも寝ることが勇ましくかっこよく見える作品はないと思います。「オラが寝るから大丈夫!!」は今作のキャッチコピーのひとつですが、秀逸ですよね。

どんなにつらい現実に直面しても、自分がやりたいことを曲げずに貫くしんちゃんは頼もしくて、勇気をもらいますね。

女性は強い

サキちゃんに決意を促し、導いてきたのはしんちゃんですが、今作はしんちゃんが中心になって話を動かすという従来の構成とは異なるところが珍しいです。

他人との関わりを拒絶して孤立するサキちゃんに、ネネちゃんが「ごめんなさいも言えなければ、ありがとうも言えないの!?」と珍しく怒ったかと思えば、「そこまでいくと嫌いじゃないわ!」と手を差し伸べたのは意表を突かれました。サキちゃんが迷いながらもかすかべ防衛隊に入ったのはネネちゃんの影響です。サキちゃんが「私のこと嫌いにならないって約束できる?」と少しだけ心を開き始めます。

やはりあとでネネちゃんを傷つける悲劇が起きてしまいますが、自分の気持ちに素直になったサキちゃんは、今まで言えなかった言葉を発して、ネネちゃんはすべてを受け入れます。「嫌いにならないって約束したでしょ」と。これもしんちゃんと同様に、自分に正直に生きるネネちゃんだからこそできたことなのかなと。筋は通すんですよね、ネネちゃん。かっこいい。ネネちゃんのおかげでサキちゃんは真の友情を手に入れました。

そして、鑑賞後に誰もが、みさえの母としての姿がかっこよく見えたことと思います。まさに「母は強し」なのだなと。今作はかすかべ防衛隊(とひまわりとシロ)による戦いがメインですが、ひろしとみさえだって全力でサポートします。ひろしの見た悪夢は本当にえぐいなと思いましたが、懸命にみさえが励まし、しんちゃんのために立ち上がります。みさえが絶対に折れないんですよ。

ユメミーワールドでかすかべ防衛隊が戦う一方で、みさえは悪夢の正体を知り、「伝えなきゃいけないことがある」と再び動きます。これは是非、自分の目で確かめてほしいと思います。

みさえを通して、サキちゃんの母もやはり強かったんだな、と愛の深さを思い知らされました。

ネネちゃんとみさえが今までなかったような掘り下げ方をすることで、さらにキャラクターが豊かになり、新しいクレヨンしんちゃんが観られました。しんちゃんだけにスポットライトをあてず、登場人物みんなの行動原理がしっかりしてます。

サキちゃんかわいいよサキちゃん

今作はヒロインであるサキちゃんの成長物語でもあります。

サキちゃんは悲しい過去から自分を呪うようになってしまいました。そんなサキちゃんを父・夢彦は守るためにどんなことでもしますが、それが結果的にサキちゃんを追い詰めることにもなっていました。親子で暮らす日常シーンですら、どこかチグハグで、とても不気味でした。

そんなとき、サキちゃんはかすかべ防衛隊から友情を授かり、野原一家から愛情を知ります。

悪夢との戦いの果てに、サキちゃんはひとつの結論を下すことで、悪夢との決着がつきます。見事な結末でした。

はぁ、サキちゃん尊い・・・。

とにかく明るいまとめ

今回は、ユメミーワールドがとてもクレヨンしんちゃんらしい素敵な作品で、見どころがたくさんあることを書いてきたつもりです。ロボとーちゃんはクレヨンしんちゃんを知らない人でも楽しみやすい名作だったと思いますが、今作はクレヨンしんちゃんを好きな人こそさらに楽しめる名作になっているのではないかと思います。

安心してください!面白いですよ!

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