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(2017/12/11追記)ロックマンシリーズについて進展がありましたロックマン30周年、運命の歯車が動き出す
(2014/08/17追記)カプコン叩きが目的ではないです。補足記事を書きました→DASH3の記事を書いたワケ

最近、エクストルーパーズはDASH3の作り直しではないということを書きました。このような騒動など、DASH3開発中止後の様子をずっと見てきたんですが、そこで思うことがあります。

開発再開を求めるファンであっても開発室に参加していない人が多いのではないか?

開発中止後になって初めて騒いでる人が結構いるなぁと。開発室に参加していなかったことを責めるつもりはないですが、無知ゆえにいい加減なことを言ってる人を見ると頭を抱えます。問題視しているのは、情報格差があるということです。

DASH3は開発中止の発表とともに公式サイトが閉鎖され、開発室も少しの間を開けて閉鎖し、現在閲覧できない状況です。開発室に参加していなかった人が当時の状況がよくわからないのは無理もないことです。ためしに「ロックマンDASH3」でぐぐると大した情報が出てこないことに気付かされます。

これではいけない。本当に今更ですが、DASH3開発再開を求めるならば、こちらの記録をまずしっかりしなければいけなかったのではないでしょうか。やろうと思ったことはあったんですけど、モチベーションが続きませんでした。今では問題意識がはっきりしています。記録に残すというのは、検索でたどり着けるまとまった情報が存在しているべきという考えです。検索上位にくるといいなぁ。

ということで、今回は、DASH3が開発中止に至った経緯についてまとめたいと思います。そして、当時を知る者として、その背景に見えてくる大きな闇についても扱いたいと思います。それらを踏まえた上で、最後にはどうすれば次につながるのかといったことを考えてみます。

それでは、今回も長文となりますので、時間のあるときにお茶でも飲みながら読んでください。

開発中止の経緯

まずはDASH3開発中止の経緯を時系列でまとめておきます。私のブログの他、私のTwilogCAPコブンさんのブログを遡ることで大体の経緯は確認できました。これらがなければ大変でした。記録を残すことは大事だと痛感します。

全て書くわけにもいかないので、**開発中止に関係する中心的な事柄についてまとめていきます。**流れを俯瞰するのにちょうどいいでしょう。他所で見たまとめ(2chスレのコピペ)は一部日付間違ってたりしましたが、改めて調べて確認しましたので、こちらを信用してください。

2010年9月29日。
「任天堂カンファレンス2010」において、3DS向けタイトルとしてDASH3が製作中であることが稲船敬二氏により発表される。直後、DASH3公式プレサイトが公開される。ロックマンシリーズ新作の噂は過去に何度もあったが、いつも噂のまま終わっていたので、噂を信用しないファンも多かった。しかし、元カプコンの神谷英樹氏の発言(2010年9月18日)もあり、かなり期待されていた状況の中での発表だった。

2010年10月11日。
コミコン・インターナショナル(Comic-Con International)で、DASH3 **“PROJECT”と称してユーザー参加型開発を行うことが発表された。公式プレサイトではその第一弾として「新ヒロインデザインコンペ」が開始。新ヒロイン「リリィ(仮)」**のデザインをユーザーの投票によって採用案を決めるというものだった。各ロックマンシリーズに関わった主要なデザイナーを集めていたため、DASH以外のシリーズファンからも注目される。

2010年10月29日。
稲船敬二氏が自身のブログ上でカプコンを退社することを発表する。DASH3に対する先行きの不安さが見えた最初の事件となる。一方、開発室では新ヒロインデザインコンペの結果が発表され、コマキシンスケさんの案が採用される。

2010年10月30日。
稲船敬二氏がダレットおよびカプコンを退社。(正確には辞表が受理され、11月下旬に契約終了?)

2010年11月14日。
ダレットにおいてSNS**「ダレットビレッジ」が11月16日より始まり、その中で「DASH開発室」**「ロックマンユニティ」の公式サークルが同時にスタートすることが明らかになる。ロックマンを取り扱う公式SNSとしても期待される。

2010年11月16日。
DASH開発室オープン。同時にサービス開始したダレットビレッジを利用する形だった。初日で開発コブン(登録ユーザー)数は1500人を突破し、ブログへのコメントも盛り上がっていた。また、新ヒロインの名はリリィからエアロに変更となり、デザインも中島暁子さんによってリファインされた。

これ以降、ボーンメカ募集を始めとする様々なユーザー参加型企画が展開されていく。下の動画は2011年1月6日に公開された開発室のPV。

2011年2月16日。
DASH3公式ブログに「覚悟表明」と題した記事が掲載され、本製作承認を通っていないことが明らかとなり、2月22日に承認会議があることが発表される。DASH3の雲行きが怪しいことが明確になった日であり、ファンの反応は様々。

2011年2月22日。
承認会議。

2011年2月24日。
DASH3プロジェクトと関係の深いダレットが親会社のカプコンに3月28日付で吸収合併されることが発表される。

2011年2月25日。
DASH3公式ブログにて、承認会議の結果が**「試作期間の延長」**であることが発表される。承認でも却下でもない結果に、ファンの間では動揺が更に広がる。

2011年2月26日。
ニンテンドー3DS発売。

2011年3月4日。
発売されたばかりの3DSはあまり普及しておらず、ニンテンドーeショップもサービス開始していないという状況。そんな中で、開発中のタイトルを試遊してもらう場として**「ニンテンドー3DS×CAPCOM プレミアム体験会」**が3月29日に開催されることが発表される。出展作品の中にはDASH3の試作が含まれ、ユーザー参加型企画であったDASH3にとっては重要なイベントとして注目される。

2011年3月11日。
東北地方太平洋沖地震発生。

2011年3月22日。
震災の被害や当時加熱した自粛ムードを見て、プレミアム体験会の中止が発表され、DASH3は試作体験の場を失う。

2011年3月28日。
株式会社ダレットが株式会社カプコンに吸収合併される。ダレットはサービス名として残る(ドメインもそのまま)。

2011年4月21日。
ニコニコ生放送の番組「ゲームのじかん」にDASH3スタッフ(プロデューサー・北林達也さん、ディレクター・江口正和さん)が出演し、新PVやデモプレイが公開された。新主人公・バレットや彼の所属するブライトバッツなど多くの新情報が発表された。また、5月末頃サービス開始予定だったニンテンドーeショップにて**「ロックマンDASH3 THE プロローグ! ゲームのウラ側見せちゃいます編」**としてプロローグ版(試作)が200円で発売されることが発表された(当時は無料で配信できなかった)。

以下の2本の動画は、上が番組中で流れた新PVで、下が番組終了後に海外で公開されたプロローグ版の告知PVとなる。

さらに、番組を録画したもののうち、公開された3つのミッションの部分だけ抜き出した動画をファンが公開したものが以下。何故か開発室では公開されなかったレアな映像。

2011年4月22日。
DASH3公式サイトオープン(今まではプレサイト+開発室)、開発室リニューアル。DASH3公式ブログに「重大発表」と題した記事が掲載され、プロローグ版の売れ行きが好調であれば本製作承認が降りるらしいことが発表される。ユーザーの反応は分かれたが、ここからの持ち直しが期待された。

2011年4月28日。
一部ファンを招いてプロローグ版を先行して体験してもらい、スタッフと直接意見のやり取りをする**「リアルミーティング」**を5月21日に行うことを発表。参加希望者の募集も始める。応募する内容にはブログのURL(所持していれば)なども含まれた。

2011年5月10日。
ダレットが6月23日付でカプコンオンラインゲームズに吸収されることが発表される。

2011年5月16日。
リアルミーティング参加者宛に当選通知が送られるはずだったが、リアルミーティングの開催延期が発表される。新たな開催日については未定。

2011年5月20日。
製品クオリティ向上のためにプロローグ版配信を延期することが発表される。新たな配信日については未定。先述の通り、プロローグ版の売り上げ次第で本製作承認が決まると伝えられていたため、ファンはショックを受けた。

2011年6月23日。
ダレットがカプコンオンラインゲームズに吸収される。ダレットのドメインでアクセスするとカプコンオンラインゲームズ(COG)に飛ばされるようになる。これに伴い、「ダレットブログ」は「COGブログ」に変わった。ダレットの名はダレットビレッジだけが残る。

2011年7月19日。
DASH3開発中止およびプロローグ版の配信中止が発表され、開発室の投稿は凍結され、プロモーションサイトなど一部閲覧不可になる(キャラクター相関図など貴重な情報が失われる)。8月19日に開発室も閉鎖されることが発表される。ブログも沈黙を貫き、名前を出したスタッフの声が一切伝えられることはなかった。

2011年8月11日。
ダレットビレッジが9月21日にサービス終了することが発表される。

2011年8月19日。
**DASH開発室閉鎖。**これに伴い、公式ブログなど閲覧不可になる。

2011年9月21日。
ダレットビレッジがサービス終了。これによってダレットの名のつくサービスはすべて失われる。

2012年5月9日。
COGブログ(旧ダレットブログ)が6月27日付でサービス終了することが発表され、新規登録が凍結される。

2012年6月27日。
COGブログがサービス終了(ちなみに、これを利用していたロックマンユニティはライブドアブログに移行しています)。

だいたいこんな感じかな。こうして振り返るとものすごい勢いで開発中止に至ったように見えますけど、やはり本製作承認通ってなかったのが痛かったのだと思います。

ユーザー参加型企画のそれぞれに国内外で色んな反応がありましたが、終始、不安は拭えない感じではありました。

開発中止の背景

**DASH3の開発中止はとても不気味でした。**このことも当時開発コブンとして関わってた一人が感じたこととして、書き残すべきでしょう。

ここから先は引用が多くなります。すべて丁寧に目を通す必要はないでしょう。私の文章だけ見ていれば、実質読む量はかなり減ります。

稲船氏退社に見る闇

2010年10月29日、**稲船敬二さんが自身のブログでカプコンを退社することを明らかにします。**これが一番初めに不穏さを漂わせた事件であることは既に書きましたね。DASH3が発表されたのは2010年9月29日ですから、まだ1ヶ月しか経っていません。

稲船さんは初代ロックマン1からずっとロックマンシリーズに関わってきた人で、DASH3プロジェクトを立ち上げた張本人であり、同作のプロデュースを行う立場でした。つまり、DASH3チームのトップです。さらに、カプコンという大企業の開発部におけるトップでもありました。たくさんのプロジェクトと部下を管理しているため、それぞれに深く関わって細かく指示出しをするわけではありませんが、企画を通すか通さないかということに関われる強力な権力を持った人でした。そんな重要な人がカプコンから抜けました。そんな強力なロックマンの味方を失いました。

社長の仕事は、部下を評価することと、夢を語ること。
この2つが出来たら、誰でも社長になれる。
そう思ってきたし、今もそう思っている。

しかし、もうダレットではこの2つが出来ない。
部下を評価する権限も、夢を語る資格もなくなったよ。

今月末で辞任します。

(中略)

カプコンも辞任します。

(中略)

カプコンは本当にいい会社だ。
嘘偽りなく、俺はカプコンを愛している。
もしかしたら、世界中で一番。

しかし、想いは必ず遂げられるとは限らないもんだ。
昔、大好きだった彼女ともそうだったように。

こっち側の一方通行じゃあ、どうしようもないことがある。

カプコンの力になり続けるチャンスはあった。
俺は最後までそのチャンスに賭けた。
カプコンも俺も幸せになれる方法。 きっとそれは出来た。

しかし、今となってはそのチャンスは完全に断たれた。

稲船がカプコンと何かを共にすることはこれから先きっとないだろう。

カプコンはこれから稲船抜きで歩まなけれならないし、俺は俺でカプコンに頼ることは出来ない。

23年一緒に歩んできたけど、別れるときはあっさりとしたものだ。

何かあったんだろうなということを匂わせていますが、これではなんのことだかわかりません。しかし、同日、4Gamerで稲船さんのインタビュー記事が掲載され、そこで**闇が垣間見えます。**4Gamerさんは9月末に稲船さんにインタビューのオファーをし、10月半ばにアポを取りました。しかし、そこで退社することが明かされ、予定を変更し、退社の経緯や今後について聞くこととなりました。稲船さん本人が退社を明らかにするまで、その記事は暖められていたのです。これがまたすごい内容なので、是非とも全文読んでもらいたいのですが、DASH3に関連するところだけ抜き出します。3ページ目からの引用になります。

稲船氏:
 それと同じことです。カプコンを救いたいんです。でも,カプコンに甘えて自分がダメになっていくのとそれは別問題ですし,今回改めて「目指している道が違うことが明確にされた」ので,カプコンを出て行くことになりました。

4Gamer:
 でもそこまでして救いたいのであれば,辞めたあとでもカプコンのために仕事することはできますよね。実際,そういう人は大勢いますし。

稲船氏:
 まったくそのとおりです。だから,カプコンを離れて,カプコンから独立して会社を作りますけど,カプコンと契約をして,今仕掛かっているタイトル全て受ける準備があります,と伝えたんです。それを受けちゃうと,ほかのパブリッシャからの仕事はまったくできませんけど,仕掛かったものは最後まで仕上げておきたかったんです。しかしかなわぬことでした。「不要である」と。

4Gamer:
 そうですか……。断った詳細な事情までは分かりませんが,しかしそれだと,もしかしていま動いているタイトルのうちいくつかは「陽の目を見ないまま闇へ」となる可能性があるわけですね。

稲船氏:
 そうでしょうね。

4Gamer:
 ロックマンDASH3とか大丈夫ですかね……。

稲船氏:
 タイミングを見て,メンバーを集め,作戦を練り,ロックマンDASH3をようやく立ち上げました。本当はこんな時期に辞めたくはないんですけどね……。でももうやれないんです。気力が続かないんです。だからこそカプコンを離れて気力を維持して,その状態でカプコンを支えたかったんですが,かなわぬようです。
 生き残らせたいと思って働きかけていくと思いますけど,こればっかりは分かりません。

4Gamer:
 でもさっきの話で言うならば「ロックマンは稲船が作ったから売れた」と思われていたら生き残りませんよね。「ロックマンはロックマンであるから売れるのだ」と思われているのであれば,生き残るプロジェクトのはずです。

稲船氏:
 確かにそうですね。
 たぶん稲船というブランドは,稲船じゃない誰かほかの名無しの権兵衛さんであっても,カプコンにとっては同じなんです。辞めるという決断を最後に後押しした理由はそこですね。しかも悲しいことに,辞めることによって,自分でそれを証明してしまったことになるんですよね。そこは本当に悲しかったです。

詳しいことはわかりませんが、それでもそこまで話していいのかというほどのぶっちゃけトークです。稲船さんはカプコンに残っていられない状況となり、**退社後も外部からDASH3を支えられると提案しますが、これをカプコンが断っています。**これ以降、稲船さんはDASH3の内部に関わることはできず、外部からいちユーザーとして応援する立場となります。

稲船さんは実は開発室ブログにコメントを残していたのですが、気付かなかった人もいると思いますので、全文引用します。印象操作になりそうなので、ほんとは飾らないほうがいいと思うんですが、気になるところを太字にさせていただきます。

203 稲船 敬二 2010年10月30日 13:27

無責任。 その通りだ。
そんなこと承知の決断。 当然悩んだ。

出来ればこの「DASH3」だけでもやりたかった。

今の社会ってものは、納得のいかないものだらけなんだよ。
自分自身の信念を貫きたければ、自分自身がTOPになるしかないのさ。

俺はDASH3を何とか立ち上げたよ。0から1の一部だ。
あとはどうするかみんな考えてみてよ。

スタッフもファンもやることは一つじゃん。
潰される恐怖に怯えるより、潰せないくらいここを盛り上げてみてよ。
盛り上がったコミュニティを無視して会社が勝手に潰すなら、もうそんな会社には未来はないよ。

DASHが復活出来る唯一の方法に賭けたんだよ。
俺がいなくても作れるんだよ。
道をつけるのが俺の仕事でもある。
道さえつけば、あとは進むだけさ。 間違った道に進まないようにみんながいるんだろ?

それに、俺がいなきゃ作れないようなやわなスタッフじゃないよ。
その証拠にコンテストも正直に俺を最下位にしたじゃん。
普通のサラリーマン社会では上司に気を利かしてせめて真ん中位に置いておくんじゃん。
そうしないと評価下がるから^^

ここのスタッフはそんなことしないよ。
逆を返せば、信頼関係だ。
稲船は「最下位」でも怒らないことを知ってる。
勝負は勝負、負けて怒るならやらないか、絶対1位を目指して努力するかだ。(つづく)

204 稲船 敬二 2010年10月30日 13:28

もし、DASH3発表前に俺が辞めてたら。
ハッキリいってDASHは二度と復活しなかったと思う。

偉そうに言ってるのではなく、真実だ。

だからこそ、このプロジェクトを大事にしてほしい。
俺のカプコンでの最後の一矢だ。

確実に敵の眉間を貫いてほしいよ。
そのためには、スタッフの根性とここに来てくれてるファンの力が必要なんだよ。

今後は俺もDASHファンとしてこの「開発室」から参加させてもらうよ。
江口はやりにくいかもしれないが、遠慮なくビシビシ指摘するよ。

障害は槍のように降ってくるが、信念があれば弾きかえせるよ。

無責任と責められても、俺も信念を貫きとおすさ。

開発者が望んで、ユーザーが望むゲームそして経営者が望むもの。
たったひとつ。 開発者とユーザーと経営者が同一な会社。

俺はそれを目指す。

DASH3という企画がどれだけ困難なものであるかを示し、ファンに協力を促しています。スタッフを鼓舞するようなメッセージも含まれ、今見ると目頭が熱くなってしまいます。しかし、ここでいう**「敵」**とは何なのでしょうか。世の中の不条理でしょうか。それとも、社内の誰かでしょうか。先に引用した稲船さんのブログやインタビューを読み返してみてください。だんだん稲船さんの人物像が見えてくると思います。

2010年10月14日、投資家・やまもといちろう氏が意味深な記事をブログに書きます。比喩が多くて読みにくいですが、王国はカプコン、騎士団長は稲船さんのことを指しています。カプコンを痛烈に批判(典型的な大企業病)しつつ、稲船さんを支持する内容となっています。

● 王国の衰亡と新勢力の台頭

 会社は、優秀なマネージャーの叛乱鎮圧にあたって政治で勝つことはあっても、利益を得られるとは限らない。

 優秀なマネージャーが会社に条件を突きつけるのは、それなり以上の合理的な理由があるからなのだ。

 そして、騎士団長の放逐というのは定期的に繰り返される。環境が変化するごとに大本営の無理解や宮廷政治ぶりに苛立ち、必ず抗議をエスカレートさせることが企業文化となる。騎士団長を追い出した副官は、その数年後に、自分もまた追い出される立場となることに対して正常な想像力を働かせることができない。

 幹部が国王の劣化コピーばかりになるのと同様、前線を預かるべき歴代騎士団長も、だんだん粒が小さくなる。そうこうしている間に、市場全体の環境変化に鋭く適応した新勢力が、いろんな方向から王国に立ち向かい、利益を削ぎ落としていく。

● 放逐されたから騎士団長が終わるとは限らない

 そもそも、騎士団長になるのは優秀だからである。実績を挙げられるのは、優れた将軍だからである。逆に言えば、兵のいない将軍は凡人であるし、兵を維持できる仕組みさえ提供できれば、地位を失った騎士団長であっても領土を確保できるようになるだろう。

 騎士団長が新しい王になるとき、それこそ、老いた国王にとっては最悪の悪夢となる。

 ゲーム業界においては激震となるとは思うけれども、一歩でも二歩でも先を見て、より良い作品や世界に評価されるコンテンツが提供できるならば、むしろいまある混乱というのはプラスに働くのではないだろうか。

やまもと氏の立場は私はよくわかっていないのですが、下にまとめられている騒動を見るに、ひとまずダレットに関わっていたようです。聖剣伝説シリーズの作曲で有名な菊田裕樹さんが、稲船さんのインタビュー記事に苦言を呈していたのですが、「事情を知らない人が関係者ヅラして妄想を垂れ流すのは風評被害だ」という主旨でやまもと氏が反論しています。

後に、やまもと氏は稲船さんの作ったcomceptとinterceptという会社の取締役に就任します。当時、やまもと氏が代表取締役を務めるイレギュラーズアンドパートナーズはcomceptと住所が一致していたらしく、深い関係がありそうです。だから、菊田さんの発言の火消しに回ったのでしょう。しかし、comceptの取締役は既に辞任しています。

ちなみに、Togetterによるまとめの中で出てくる@maqautoさんは池原実さんのようです。ブレスオブファイアシリーズやドラゴンズドグマの主要スタッフの1人で、DASH1にも関わっていたようです。稲船さんを支持していながらも、社内に残った部下のようです。ちょうどドラゴンズドグマの開発で忙しかったでしょう。池原さんのツイートからもかなり闇を感じます。

これは私が今のカプコンに抱いているイメージと一致します。私はDASH3は社内政治に負けたのではないかと見ています。

あれこれ引用してきましたが、カプコンの闇を感じ取られたでしょうか。ここまで**「お家事情」**が外部に露見してしまう会社もなかなかないのではないでしょうか。

開発中止の悲劇

2011年2月16日、開発室ブログ上で、本制作承認が降りてないことが明らかになりました。

2月22日の会社の会議に、DASH3の本制作承認ってやつを獲りに行くぜ。
カプコンでは、まず最初に数ヶ月かけてゲームの試作ってやつを作り、
それをいろんな人に見てもらって、ようやく本制作承認をめでたくゲットできるって仕組みだ。

そして、DASH3はその試作を鋭意制作中ってわけだ。
みんなに協力してもらいながら進めているまさに今が、本制作承認を勝ち取るための
大切な時間なんだ。
そう、ぶっちゃけて言えば、ここでもし「イケてない」と判断されたら、
次に昇るべきステップを、いわゆる“女神の前髪”を逃してしまうかもしれないってことだ。

だから今、俺たちはめちゃくちゃ燃えている。
ここまで来て、引き下がるわけにはいかない。
・・・絶対に。

ロックを助けに行くためのロケットが飛ばないなんて、そんなことには俺がさせない。
今回の試みが失敗に終われば、ロックは永久に地球に帰れないんだぜ?
救出ロケットを打ち出すのは今しかない、俺たちしかいないんだ!!

コメント欄では、江口さんが頑張ってファンのコメントにひとつひとつ返事していました。今見ると、すごくつらいものがありますね・・・。みんな返事読んだのかなぁ。

この承認会議では開発中止にはなりませんでしたが、試作延長となり、本制作承認はもらえず。そんな状況のまま開発室の運営は続きます。「ニンテンドー3DS×CAPCOM プレミアム体験会」というイベントで出展する予定がありましたが、震災による自粛でイベントが中止になりました。運が悪すぎます。それ以降、開発室そのものも自粛しているのか更新が控えめな時期が続きます。

2011年4月22日、プロローグ版の売上がよければ承認が得られるということがブログに書かれました。

新しいところばっかり書いちゃったけど、
もちろん、DASHの続編をずっと待っててくれた人の期待に応えるものであることも必須だ。
ロールやデータなど、おなじみのキャラと再会出来て
DASH2で止まったままの時が動き出す!そんな試作が出来上がった!

この新しい可能性を感じさせる試作を引っさげて臨んだ社内の本制作承認会議。
バレットのウケは狙い通り上々。手応えアリ!だったんだけど・・・
10年以上前のシリーズの新作を、どのくらいの人に受け入れてもらえるのか?判断は難しい。

そこで登場するのが「DASH開発室」。
ユーザーさんと開発段階から一緒に盛り上がっていこうっていう、この企画だ。
これを利用すれば・・・ってことで、ここから先は前代未聞、驚きの展開だ。

なんと、会社に提出したこの試作DASH3、
言ってみれば、『DASH 3 プロローグ版』をダウンロード販売して、
その盛り上がりで本制作承認の判断をする!という決定が下ったんだ。
盛り上がればそのままGO!!盛り上がらなかったら…ブルブル!そんな事考えたくもない!

プロローグ版の発売時期については、ズバリ5月末頃を予定している!期待して待ってて!!

プロローグ版の配信にファンの注目が集まるわけですが、その後については、先行体験する機会(リアルミーティング)が開催日未定となり、のちにプロローグ版も配信日未定となりました。ファンはさっさと承認を受けてほしかったので非常につらい思いをしました。**プロローグ版のために3DS本体を買った人だっています。**当時はまだ3DSが値下げしていなかった頃です(2011年7月28日に値下げを発表、同年8月11日に実行)。

そのような状況において、2011年7月19日、告知なしに公式サイトを閉鎖(ヒトコト以外の開発室が暫く残る)して情報を残さず、名前を出したスタッフは一切言葉を発することがなくなり、ブログのコメント欄も閉鎖されてファンの声を直接伝える手段もなくなりました。ダレットの名がつくものも消えていきます。とにかく「何も残すな」と言わんばかりの徹底ぶりでした。開発室に積極的に参加していたユーザや3DSを購入したユーザは特にショックが大きかったでしょう。

DASH3の開発中止がこれだけ騒がれているのは、カプコンのやり方が不誠実であり、禍根を残すものだったからだと思います。みんな清算できていないんですよ。

**稲船さんが作りたいと長年言い続けていたのがDASH3です。**この記事ではじめに貼り付けた発表時の映像を見てほしいです。稲船さんの嬉しくて嬉しくてたまらないという表情がわかるはずです。最近のクリエイターは自信なさげなので、このように楽しそうな姿を見せられると、こちらの期待もぐっと高まるというものです。

そんな稲船さんがすぐにカプコンを退社することになったということ自体、あの会社が相当深い闇を抱えていると感じられてなりません。既に書いたように、退社後もDASH3に関わる意思はあったけど、断られています。「稲船さんが途中で投げ出した」という人をよく見かけますが、そうじゃないと思います。なんとかしてもっと長く留まれなかったのだろうかとは思うのですが・・・。

稲船さんの退社後、**DASH3やメガマンユニバースやダレットといった稲船さんによって立ち上げられた企画が急速に消えていきます。**ダレットではダレットビレッジというSNSを立ち上げて、これをDASH開発室でも利用する形だったのですが、DASH3の開発中止が決まってからは早々にダレットビレッジも終了が決まりました。あまりに早すぎると思うんです。

つまり、稲船さんが退社したことによって、社内のアンチ稲船派が稲船さんの遺産を強引に潰してきたという陰謀説がそれほど的外れに感じられないほど、外から見ても不気味な動きをしていたということです。あれだけの大企業がまさかそんな馬鹿げたことをするとは思いたくないのですが、ありえなくはないと思わされるほどに信用がありません。カプコンは信用のなさを自覚して、信用回復のために誠実になるべきです。ファンをゾンビにしてどうするんですか。

もし、カプコンがそんな馬鹿げたことをやらかしていたとしたら、おそらく最も傷ついているのはスタッフになるのでしょう。有名クリエイターがどんどん退社していくことで有名なカプコンですが、**かつてロックマンに関わった主要なスタッフの多くはカプコンにいません。**稲船さんが新たに立ち上げたcomceptという会社に移った元ロックマンチームの人(DASHチームなら安間正博さん)もいくらか確認できています。優秀な人が抜けてしまうそれなりの理由があるはずです。

まあ、憶測は憶測です。真相は闇の中にあり、表に現れることはないでしょう。

開発室とは何だったのか

そして、開発室という謎企画について触れねばなりません。あえて言ってしまいますが、開発室はDASHファンが望んで納得して生まれたものとは思えません。DASHは「ロックマンDASHまわり」(2014年4月末閉鎖)という公式サイト上でファンの質問に答えたりと、ファンとの距離が近いシリーズではありました。しかし、それでも、あそこまで深く開発に参加させようという無謀な企画にする必要性が感じられません。これは何らかの意図のもとで考えられた戦略だと思います。稲船さんは開発室ブログへのコメントで**「ファンの力が必要」**だと発言しています。つまり、DASH3という今まで実現できなかったプロジェクトを現実のものにするためには、開発室が必要不可欠な要素であると言っているのです。

開発室は話題性があるというだけでなく、製品を買ってくれそうなユーザ数を事前に可視化して承認会議のネタにすることなど考えられますが、そもそも承認会議を通っていないということが問題ですよね。承認会議を通っていないということは、いつでも潰せる不安定な状況です。そこで、既成事実を作り上げることで簡単に潰せないようにした、つまり、**開発コブンとは、開発中止をさせないための人質だったのではないでしょうか。**ここで次の記事を見てみましょう。

9月20日、米ニューヨーク・タイムズ紙に稲船の長文インタビューが載った。過去最高の194社が参加した9月の「東京ゲームショウ2010」を酷評している。「みんな、ひどいゲームをつくってる。日本は少なくとも5年は遅れた。コンソールで遊ぶ最後の世代のためにゲームをつくってるようなもんだ」と一刀両断。稲船はすでに独立するハラだった。

9月27日、稲船は会長と会う。その時点までは、継続中のプロジェクトは独立後も外注の形で請け負う気でいた。ところが、飼い犬に手を噛まれたと思ったか、会長は数日後に小田民雄CFO(最高財務責任者)兼取締役と一井克彦常務執行役員(コンシューマエンターテインメント事業統括本部長)を呼び、「稲船とは一切契約をしない」と告げた。

仰天したのは役員陣だ。稲船がいないと進行中のプロジェクトの8割に支障が出る。開発が軒並み保留か中止になったら、数十億円の損失を出しかねない(カプコン広報・IR室は本誌に「影響なし」と回答した)。ゲーム開発は1作品に3年かかるものなどザラで、影響は今後数年に及ぶかもしれない。二人は懸命にとりなしたが、会長の怒りは収まらない。息子の春弘社長も説得に加わったが、稲船と同年齢の引け目からか、途中で腰砕けになった。

さらに2ページ目からの引用になります。

稲船の不満は「日本のゲームはかつて世界を制覇した。なのに、頑張ったクリエーターは報われない。一生懸命働くだけ損なんです。カプコンのようなパブリッシャーが、どんなに実力のあるデベロッパーでも下請け扱いして、裏切るようにロイヤリティーを値切る。夢がないから、ジリ貧になった」というものだ。

結局、稲船は「カプコンではもうやることがない」と辞表を提出、10月下旬のコーポレート会議で受理された。28日のプレスリリースでは執行役員1人の昇格だけ発表し、稲船は29日に自身のブログで退社を告げた(正式退社は11月下旬)。

稲船のカプコン社歴は23年。生え抜きの才能が失われたのは、これが初めてではない。「ストリートファイター」を開発した岡本吉起も、ハリウッドで映画化された「バイオハザード」の三上真司も、みな辻本に切られた。会長の持論は、クリエーターは放っておくと金食い虫になる、旬が過ぎたら使い捨て――。「開発部門で人を切ったら次々にヒットが生まれた」と胸を張っている。

(中略)

脱藩した稲船に「カプコンの組織と営業なしで大丈夫?」と聞いた。「僕は自分をゲームのコンセプターだと思っています。コンセプトだけきちっと守らせて、あとは自由裁量。ハンドリングには自信がある。大部隊を抱えなくても、海外のデベロッパーとの協業で開発できます。僕ひとりじゃない。仲間がいます」

出て行った有名なクリエイターたちが会長に切られたというと違う気がしますが、2011年9月27日(DASH3発表の2日前)に稲船さんの退社は社内で実質確定したとこの記事は言っています。退社すること自体はもっと早くから決意していたようです。外部からの関与が断られることは想定内でしょうから、DASH3の立ち上げまでは最低限踏み止まったのでしょう。稲船さんは開発部全体のトップであり、個別のプロジェクトに深く関われる立場ではない(他の業務に支障が出る)ので、そこが限界なのでしょう。開発室ブログのコメントでも**「道をつけるのが俺の仕事」**と言っています。

そして、その「道」というのが、**「開発室コブン」という名の「人質」**ではないかと。退社後もなんとか回していけるように守りを固めたのではないかということです。退社前にできることとして稲船さんが最後に仕掛けた可能性の話です。そこまでしなければならない状況っていうのが相当やばいんですが、実際、残酷にもユーザ巻き込んだままバッサリ切り捨てられましたね・・・。

このような背景を考えると、「DASH3は出せば売れた」なんて無責任なこと言えません。「出す出す詐欺」という言葉がありますが、「買う買う詐欺」という言葉も広まっていいと思います。

タダでは転ばない

稲船さんは退社後、comceptとinterceptという会社を立ち上げ、様々なタイトルに関わっています。そして、comcept内外の**元ロックマンチームの人を集めて、今はMighty No. 9を作っています。**スタッフも清算できていないのではないでしょうか。

しかし、Mighty No. 9は単純に新たなロックマンを作ろうというものではありません。Mighty No. 9はKickstarterというクラウドファンディングサービスを利用してユーザーから投資を募り、およそ4億円もの資金を得ることに成功したことで、大いに話題となりました。投資をした人(バッカー)にはフォーラムへのアクセス権が与えられ、意見出しをすることができます(国内は全然盛り上がってませんが)。これはDASH開発室の失敗から学んだ新たな挑戦なのではないでしょうか。

私はMighty No. 9を応援していますし、かつてのロックマンチームの方々の今後の活躍に期待しております。ロックマンチームにはロックマン愛の強い人が多いと思っています。声をかければ集めることができるということをMighty No. 9が証明しています。カプコンを退社してしまっても、カプコンが声をかければロックマンを作ってくれるような人たちだと思うのです。

カプコンの未来

今のロックマンは出せば売れるというほどの強力なコンテンツではありませんが、ポテンシャルの高いシリーズであると思います。カプコンはモンハンで盲目になっているかもしれませんが、キャラクターコンテンツを守らないと、どんどん大切なものを失っていくでしょう。というか、既にカプコンらしいデザインが失われてきているように感じられ、寂しく思っています。

そんなわけで今こそロックマンを大事にしてほしいのですが、稲船さんがいない今、カプコン社内におけるロックマンの立場は弱まったといえるでしょう。スマブラforを販促として利用して、次の流れにつなげようとしないならば、ロックマンの企画を通すことの絶望度がさらに上がる気がします。

ロックマンはどうすれば「お家事情」を攻略できるのでしょうか。

稲船氏に対する評価

稲船さんは正直に物を言うし、しかも内容が過激な方なので、敵を作りやすい人です。叩かれないために慎重になるタイプではなく、揚げ足取りは盛んに行われてきました。ロックマンファンの中でも評価は割れています。

2010年8月2日放送の「カンブリア宮殿」に稲船さんが登場し、会議の場で**「どんな判断や」「金をドブに捨てる気か」**と発言したことが有名です。言葉だけ知ってる人は多いでしょう。どのような状況で発言されたか(後述します)については目を向けず、まとめブログなどでネタにされました。

ちょうど稲船さんへの風当たりの強い頃にDASH3は発表されました。例えば、DASH3発表の少し前となる2011年9月3日には次のような記事が投稿されています。引用はしません。DASH3が注目された理由のひとつに稲船さんという存在はあるのかもしれません。

この頃は「世界世界言ってないで国内見てゲーム作れ」というゲームユーザーの声をよく聞いたと思うのですが、今の時代に国内だけを見るのがダメだと言っているのであって、国内を見る必要はないとは言ってないんですよね。言っていること自体はすごくまともというか、正論でしょう。気に入らない人たちが過去の失敗例を挙げて「説得力がない」と言っている構図です。

本当に当時は、まとめブログによる稲船バッシングがすごかったですよ。楽しくゲームを遊んでたほうがハッピーな気がするんですが、ネガティブな情報にはどうも魔力があるようで、どんどん加熱していくようでした。

しかし、退社後のインタビューや新しい会社での活動(ソウル・サクリファイスやMighty No. 9の製作)ぶりから応援する人が増えたような気がします。プロデューサーという立場であるため、外から見ればどのように作品に関わっているのかイマイチわからず、ただ目立つというだけで作品の不満の原因とされることもあるでしょう。また、退社後に関わったタイトルがすべて成功しているわけでもありません。結構失敗してます。それでも、私の主張となりますが、クリエイターに「失敗するな」なんてつまらない言葉は投げかけたくないです。失敗を恐れすぎると過去に縛られます。

稲船さんは他のクリエイターに嫌われることもありますが、思想の違いかもしれません。強く支持してcomceptについてくる部下だって少なくありません。人間というのは良いか悪いかという単純なものではないですよね。今後も評価は定まらないと思いますが、好き嫌いで判断するのはもったいないように感じられます。

ニコニコ生放送などでのトークを見て、かなり気さくで話の面白い人だという印象を持ちました。一部分だけ抜き出したテキストではニュアンスが失われるのでしょう。稲船塾の動画が公開されていますので、そこでも稲船さんがどのような話をするのか少し見られます。

好きとか嫌いとか、良いとか悪いとか、そういうのは短絡的だと思います。どんなクリエイターも、ちゃんと1人の人間として認められると、見えてくるものも変わってくるんじゃないでしょうか。

良くも悪くも注目される人物であり続けていてほしいなと私は思ってます。

関連記事

引用して紹介済みのものも改めてまとめます。

稲船さんのインタビュー記事が色々あります。4Gamerさんはいい仕事をしてくれます。興味深いことがたくさん書かれていますので、DASH3とは無関係に読む価値ありだと思います。時系列順に並べます。

4Gamer以外にも、インタビューではありませんが、稲船さんに言及したものがあります。記者が誰かわかりませんが、本人から聞き出した話もあり、他にはない情報があり、貴重です。

冒頭でカンブリア宮殿の村上龍さんがボッコボコに言われてますが、これは2010年8月2日放送の「カンブリア宮殿」でカプコン会長の辻本憲三氏を持ち上げたことを揶揄しています。また、この放送で稲船さんが「どんな判断や」など発言したわけですね。

この記事で言及されているニューヨーク・タイムズの記事は以下です。正確かはわかりませんが翻訳記事も添えます。

これの前には下の記事があり、そこでまず稲船さんが日本のゲーム業界の未来を悲観的に見ていることが明らかとなり、ここから上のロングインタビューにつながった形になります。

関連書籍

本記事の執筆時点で、稲船さんは退社後に書籍を3冊出版しています。発売順に並べます。

矛盾があるからヒットは生まれる

どんな判断や!

1億人に買われるメガヒット商品のつくりかた

私は本を読むのが苦手な人間でして、あまりしっかり読み込めていないし、突っ込んだ紹介はできません。しかし、2冊目の**「どんな判断や!」は特に興味深いことが書いてある**と思います。本のタイトルからして、カンブリア宮殿で話題になった発言を自らネタにしたものです。まずはこの発言の真意を抜粋します(70ページ以降)。

 カプコンでは、新ゲームの(略)企画書レベルのものに対する制作費として、数千万円の予算をつけていました。(略)これが、僕も含めた経営陣が出席する開発承認会議を通れば、数億円をかけてプロトタイプ(試作品)を作るという段取りになります。
 企画書で数千万円というとびっくりされるかもしれませんが、いまのゲーム開発は、一般的にワンタイトルで20億~30億円の制作費がかかります。それを考えると、全体の制作費の数パーセントに過ぎません。
 開発承認会議の前日、僕はあるゲームの企画書や画像をチェックしていました。(略)
 ところが、あとで別の人間から「実は、プレイアブルROM(ゲームとして動かせるROM)もあるんですけど、プロデューサーはそれを出したがってないんですよ」という話を聞きました。(略)
 どうやらそのプロデューサーは、完成度の低いプレイアブルROMを承認会議に出して、悪い印象を与えたくないと思ったようです。(略)
 そのROMは少ない予算の中で作ったものです。承認会議で認められなかったら、数千万円もパーになる。だったら、そのとき持てるすべてをぶつけなくてはいけないはずです。(略)
 すぐにプロデューサーを呼んで怒ってもよかったんですが、僕は思いました、「カンブリア宮殿」のネタにしよう、と。(略)テレビは絶対に喜ぶでしょう。(略)
 そうして、カメラが回る中で承認会議が始まります。
 例のプロデューサーのプレゼンが終わったあとに、僕は(略)経営陣にROMを見せました。(略)
 プロデューサーに「おまえな、これ、何で隠してたんや?」と聞くと、「すみません」と言う。
 そこで、
「どんな判断や。金をドブに捨てる気か」
と言ったわけです。(略)
 僕の発言は狙い通りに番組内で使われました。
 ……ただし、前後をカットされて。(略)
 僕の発言の意図としては、プロデューサーがわずかなリスクを恐れたため、数千万円の金をドブに捨てることになるかもしれない。それに対して「どんな判断をしているのか!」と怒った、というものです。
 リスクを恐れず、全力を尽くす。これが僕の仕事に対する基本的な考え方です。

ビジネスの話です。お金がなくなってしまっては、ものづくりできなくなってしまいますよね。「どんな判断や」とは、**「リスクを恐れず、全力を尽くせ」**という意味でした。知っていましたか?なかなか面白くないですか?

また、DASHについて触れられている部分があります。これは107ページ以降からの抜粋となります。

 僕は、どこかでストップをかけてしまうことが、傲慢だと思っています。
 幸いにも僕がそうならなかったのは、『ロックマン』シリーズで敗戦を経験したためです。それは『ロックマンDASH』(1997年)の売れ行き不振でした。
 その原因こそが、実は傲慢でした。
 『ロックマンDASH』の開発時、『ロックマン』は小学生に絶大な人気があるから、何をしても彼らは必ず支持してくれると思っていたんです。
 そこで、『ロックマンDASH』では3D表現を用い、ロールプレイングゲームの要素も加味し、小学生プラス、オタクを含む中高生から『ロックマン』を卒業した人まで、もう一回取り込もうとしました。
 つまり、高い年齢層を狙っても、低年齢層はこれまでどおり買ってくれると思い込んでいたのです。
 その結果は、ゲームとしての評判はよかったのですが、商業的には大ゴケしました。そのとき僕は、子どもたちをなめていたことに気づかされました。(略)
 その後、小学生をなめていた傲慢さを反省して、『ロックマンエグゼ』(2001年)を作り、再度、絶大な人気を得ることができました。(略)

 『ロックマンDASH』の失敗で、大きな損を出しました。
 上司に呼び出されて、こう言われました。(略)
 へこんでも過去は戻らない。未来で取り戻すしかないんです。(略)
 「10億損したなら、100億稼げばいい」と思い、実際に『ロックマンエグゼ』でそれを実現しました。

DASHが大きな赤字を出したことを明言されています。DASHシリーズは赤字続きであったことが知られていて、それゆえにDASH3は絶望視されていたのです。その反省を活かしてエグゼを成功させたことには反論のしようがありません。

それなのに、稲船さんは「DASH3を作りたい」と何度も言っていました。気持ちとしてはDASHが好きなのでした。退社するにあたって思い残したことがそれだったのかもしれません。そのままでは通すことのできない企画ですから、3DSという新しい舞台で、開発室という大胆な企画に挑戦したのでしょう。残念ながら、その見通しは甘かったのですが・・・。

本記事に関係する話題だけ拾ってきましたが、他にも面白い話題が詰まっています。興味がありましたら是非手にとってみてください。

状況整理

私が本記事で伝えたかったことは以下のようになります。

  • DASHシリーズは赤字だったため、DASH3はそのまま通せる企画ではない。つまり、DASH3は出せば売れるものではない。
  • DASH3を成功させるための切り札が、DASH開発室という企画だった。DASH開発室は戦略上、必要と考えられていた。
  • プロローグ版を配信させてもらえなかったり、関連サービスを急速に畳んだり、ファンへの不誠実な対応を見るに、開発中止には強引さが感じられた。
  • 稲船さんの退社と開発中止はおそらく無関係ではないが、もし社内政治の問題ならば、開発中止の原因はカプコンにある。

稲船さんを責める人がいますけど、その場合、「本制作承認を得られていないなら表に出すな」という文句がまっとうだと思います。リーダーが辞めるなら、誰かが引き継いで次のリーダーになるだけの話じゃないですか。しかも、社外からだって関われますよと言ってもカプコンが断っているんですよ。そうすると、「稲船さんが辞めたのが悪い」という主張はズレてるんじゃないですかね。1人辞めただけで中止になっては困ります。真相はもっと根の深い問題でしょう。

また、記事がさらに長くなるので今回は端折りましたが、メガマンユニバースなど他にも開発中止となったタイトルが存在します。メガマンユニバースは一度TGSでプレイアブル出展されており、本制作承認を通っていた可能性が高いです。本制作承認を通っていても、開発中止になりにくくなるだけで、絶対安心とは言えません。

次につながるためには

状況を整理したところで、未来のことを考えましょうか。私はDASH3が復活するためには以下の3点が問題になると考えています。

  • 社内政治に勝てないため、承認会議で門前払いされてしまうこと
  • 社内政治に勝ったとしても、採算の取れそうな戦略を立てて、まっとうに承認会議を通らなければいけないこと
  • 多くのロックマンチームが社外に出てしまっていること

DASH3を追ってきましたが、これが実はすべてのロックマンシリーズで抱える問題であることに気付いたでしょうか。

まず1点目が深刻ですが、社内でロックマンの味方がいなければ話になりません。ファンはスタッフを大事にして、機を待つしかないでしょう。

2点目はどのプラットフォームでどのように展開していくとよいかといった話となり、場所とタイミングが重要です。あとはどのように交渉の材料となるデータを集めるかという手段で、Kickstarterを利用するかなど考えられます。仮にKickstarterを利用したとして、誰もファンがついてこなかったらおしまいです。**「買う買う詐欺」はやめましょう。**友達の間でゲームの貸し借りをしたりするかもしれませんが、できるだけお金を出してほしいです。中古ではなく新品。今は新作ないけど。

3点目は社外に出たスタッフにカプコンが声をかけられるかということで、人のつながりの問題です。各スタッフを集められる人が重要です。社内であれば、ロックマンユニティのウッチーさん(カプコンの広報)が生命線です。社外であれば稲船さんの他、漫画家・有賀ヒトシ先生やインティクリエイツのIPPOさんがいます。1点目と同様、ファンはスタッフを大事にするしかないでしょう。

ファンは究極的には待つことしかできませんが、どのようにして待つかが大事となるでしょう。私が思いつく方針は以下となります。

  • スタッフを大事にする
  • ファン同士でつながってコミュニティを維持する
  • ロックマンが好きだという気持ちを胸の中にしまっておかない

スタッフを大事にするっていうのはお互いの立場を理解した上で尊重するということ。スタッフが「買ってくれてありがとう」と言い、ファンが「作ってくれてありがとう」と言えるような関係が健全です。

開発中止になってから初めて「実は欲しかったんだよね」と言っても虚しいです。気持ちは言葉や行動や形にしましょう。それを他の人と共有するのも楽しいですよ。楽しく待ちましょう。

私はロックマンシリーズが大好きですから、これからも新作を待ち続けます。