「ロックマン Advent Calendar 2018」の23日目です。
エグゼ1は、私が初めて触れたロックマンです。それからエグゼシリーズをリアルタイムに追いかけ、遅れたタイミングでゼロシリーズや後期Xシリーズに触れ、そこからまたさらに遡って・・・と手を広げていきました。ロックマンシリーズはナンバリング順をほぼ気にせず楽しめるのも良いですね。
さて、私をロックマン沼に落としたエグゼ1は、あとになって考えてみても、革新的だったと思います。そこで、私が当時「すごい!」と思ったことや、あとになって「すごい!」と思ったことをまとめて、とにかく「エグゼ1ってすごい!」って話をしたいと思います。
※パッケージ画像を見せたかったのですが、拾ってアップロードするのは気が引けたので商品リンクを張ります。レイアウトの都合上、ここに張りますがあとで触れます。
以下、注意点。
- めちゃくちゃネタバレします。
- エグゼ1のリメイク作品「オペレートシューティングスター」(OSS)で細かい変更がありますが、あくまでオリジナルのエグゼ1について扱います。
目次
パッケージイラストがすごい
エグゼ1のパッケージイラスト良いですよね。とても賑やかで、複雑なレイアウトです。
熱斗&ロックマンと炎山&ブルースが向かい合うような絵が強調され、「ライバルとの対戦」のイメージがあります。従来のロックマンは「平和を守る/取り戻すために戦う」という伝統的ヒーロー像を持つことが多かったと思いますが、エグゼは全く異なるコンセプトであることがよくわかります。
さらに細かく見ていけば、隙間にこれでもかとたくさんのキャラを敷き詰めていて、何重にも楽しめるイラストになっています。キャラが多いと楽しい。グライドが黒幕的な存在感を放っているのが謎ですが、「戦わないんかい!」というツッコミも含めておいしいと思います。
エグゼ1~3のサブタイトル「バトルネットワーク」は、エグゼの世界観を端的に表すキーワードです。「バトル」とは「正義の戦い」ではなく「対戦」のことです。そして、「バトルネットワーク」を最も良く表現しているのがエグゼ1のパッケージイラストだと思っています。だから、タイトルとイラストの組み合わせで、エグゼ世界の魅力がガンガン伝わってくるんですよ。すごい。
パッケージイラストがあまりにも私の気を引くので、ジャケ買い不可避でした。私にとっては運命的な出会いとなりました。
2以降はメインキャラに絞ったパッケージイラストになっていくので、エグゼ1の賑やかさはシリーズとしても異端です。エグゼシリーズの導入という立ち位置だからでしょうか。2以降はアニメなどで世界観が十分に認知されているので、キャラクターメインに絞っていったのかもしれません。
キャッチコピーがすごい
「未来をデリートさせるな」
「いつでも僕らは繋がっている」
エグゼ1のテレビCMで用いられたキャッチコピーです。動画はてきとーに探してください。
熱斗くんとロックマンが背中合わせに並び、ロックマンが振り返りながら語りかけてくるところが熱いですね。「現実」と「電脳」、交わらない世界に存在する2人が強い絆で結ばれていることを表していますし、インターネットを連想させる言葉選びがまた絶妙です。ロックマン側から向けられる言葉になっているのは、熱斗くんをプレイヤーの分身として感情移入させるためでしょうね。
Janne Da Arcによる「NEO VENUS」がまた良い曲です。エグゼっぽくない歌詞ですが、爽快感はハマっているので、なんとなくそれっぽいです。ふんいき大事。
エグゼのテレビCMといえば、エグゼ3も人気が高いです。ロックマンとブルースがN1グランプリで対決するシーンを描き「君の力を僕にくれ!」と叫ぶもので、キレッキレのアニメが最高にかっこいいです。近年は花やしきブルースのおかげで忘れがちですが、ブルースってかっこいいんですよ、実は。
この時代のロックマンCMはセンスに満ち溢れています。
タイトル画面がすごい
エグゼ1のタイトル画面がもう大好きで大好きでたまりません。
ロックマンのイメージカラーである「青」一色を背景に、タイトルロゴを真ん中に大きく置いてあるだけというシンプルな構成ですが、タイトルロゴ内に覗かせる電子回路のような細やかな背景がスクロールするのがとてもサイバー感あってクール。
動くタイトルロゴって印刷物では表現できないので、ゲームを起動して初めて「すごい!!」と驚かされます。それまでゲームボーイカラーの時代だったこともあり、ロゴの情報量の多さは鮮烈でした。ゲームボーイアドバンスという小さなゲーム機がここまで表現できるのかという驚きもありました。
そして、なんと言っても名曲「THEME OF ROCKMAN EXE」ですね。スクロールするタイトルロゴを先に見せてから、遅れ気味にフェードのかかったイントロで始まり、「ふふ ふんふんふんふん ふーん」とヒロイックだけど哀愁のある何重にも美味しいテーマ曲が流れる!一瞬で惚れて聴き込んでしまいました。エグゼ音楽といえば「イントロの良さ」なので、よく覚えておいてください。
初めて遊ぶゲームのタイトル画面って高揚感があって好きなのですが、その気持ちを上乗せしてくるエグゼ1の演出にはとても感動したものです。
世界観がすごい
念のため、エグゼの世界観を先に説明します。
高度にネットワーク社会が発展した近未来を舞台とし、人々の生活を支える「PET」と「ネットナビ」という2つの大きな技術革命がありました。人々はいつでもどこでも携帯型情報端末PETでインターネットに繋がり、あらゆる情報サービスにアクセスできます。そして、PETの中には疑似人格プログラム「ネットナビ」を入れておくことで、電子メールやオンラインショッピングの操作を代行・自動化してもらいます。複雑な操作はネットナビに任せる一方、持ち主は彼らに指示(オペレーション)をするため「オペレーター」と呼ばれます。面白いことに、ネットナビはオペレーターの趣向に合わせたカスタマイズやパーソナライズが施され、疑似人格を持つことでコミュニケーションを取ることができます。生活のパートナーとしての存在感があります。
技術が人々の暮らしを豊かにした代償として、技術を悪用する新たな犯罪が生まれることとなりました。コンピュータウイルスが蔓延し、人々は自衛のためネットナビに戦闘能力を持たせ、ウイルスバスティング(駆除)します。そのとき武器になるのがバトルチップですね。ウイルスに負けるとネットナビがデリート(消去)される可能性が高く、バックアップも欠かせません。ウイルスをばらまいたり、ネットナビを利用して犯罪を行う悪意のあるオペレーターが存在するため、主人公たちはこの驚異に立ち向かうこととなります。
ネットナビの行動範囲である電子機器中の世界を「電脳世界」と呼び、これと区別するように人間の生活する世界を「現実世界」と呼びます。電脳世界の主人公・ロックマンと、現実世界の主人公・光熱斗というW主人公により、2つの世界で物語が進行するのがエグゼの特徴です。電子機器の中では、それぞれの仕事に特化した「プログラムくん」が働いていて、ネットナビは彼らに仕事を依頼する立場でもあります。プログラムくんにも個性があり、一生懸命働いたり働いていなかったりする様子を見るのもなかなか楽しいものです。
スマホが普及し、AIが身近になってきた現代では、エグゼの世界観はある程度現実のものとなりました。当時はまだパソコンの普及期で、ガラケーも登場したばかりでした。ですので、スマホが登場したあたりから、「エグゼは先見性のあるリアルな世界がすごい」とも言われるようになりました。開発側としては、開発環境としてパソコンなどは身近だったので、その地続きとなる未来図を描いたそうです。
そこで私が思うエグゼの世界観のすごさとは、とてもわかりやすい抽象化・視覚化になります。「未来はこうなる」「こうなったら便利だな」と想像することができても、それを誰にでもわかるように提示することはとても難しいことです。例えば、コンピュータウイルスというデータ上の存在に対して、見た目を想像して理解することは通常かないません。
エグゼはそういうデータにわかりやすいビジュアルを与えました。電脳世界というフィールドを見事に表現しました。ウイルスはなるほど攻撃性が高そうです。ネットナビはオペレーターと対になる個性を持つことが見た目にもわかりやすいですが、パートナーとしてだけでなくアバター(分身)としての役割も持ちます。なんとなく人型なのはアバターだからでしょう。電脳世界で行動可能なアバターがいるからこそ、電脳世界を具体的なイメージを持って理解できます。「この電子機器にはプラグインできるかな?」「こういう仕事をするプログラムくんのおかげで電子機器が動いているんだな」といったことを体験・学習できるようになっていますし、それを期待してマップの隅々を調べたくなるほど作り込まれ、好奇心を煽ります。子どもにも伝えられるほどの高度な抽象化は本当に素晴らしいものです。
小難しい言葉を用いるなら、優秀な「インターフェース」を提示したとも言えるでしょう。スマホなど複雑化するツールを誰でも簡単に扱えるようにするには、対話によるオペレーションなどを可能とするインターフェースが重要となり、積極的に研究・開発されている分野になります。情報の「量」が増えた現代では、情報を「効率よく活用する」ことが重視されるわけですね。きっとその分野にもエグゼ好きで、エグゼの世界を実現しようと頑張っている人がいるんじゃないかなぁ、とか思ったりします。アトムが好きでロボット工学はじめましたって人は珍しくないように、エグゼもそういう影響力を持った作品だったと思います。
用語がすごい
世界観がすごいって話で、ビジュアルが素晴らしいという話をしましたが、言葉選びがまた素晴らしいので、これも触れていきたいです。
まずコンピュータウイルスは、現代人なら誰でも知っている実在の言葉ですよね。そういった実在の言葉をそのまま取り入れたり、あるいは別の意味を与えたり、といったことがエグゼには多く、世界観の理解しやすさに貢献しています。架空の概念に架空の名前を与えたものがたくさんあるととても理解が難しくなってしまうので、そのバランスに配慮があります。
この世界ではこう呼ぶ、という言葉は魅力的ではあります。コンピュータウイルスを退治することをウイルスバスティングと呼んだ方がかっこいいです。意味的にも正しい。もし、ウイルス退治のことをオメガレクイエムとかインペラーアシッドレインとか呼ばれていたら、意味がわからなくて混乱するでしょう。
そう考えると、PETとネットナビの言葉もやはり大発明ですね。PETはPersonal Terminalつまり個人情報端末の略ですが、これも意味が正しい。ネットナビは、ネットワーク上での行動を目的に沿って自動化(ナビゲーション)する役割で、やはり意味が正しい。そして、本来は戦闘目的でないことも理解できます。
PETを電子機器に接続することをプラグインと呼びます。実在のコンピュータ用語としては全然意味が違いますが、「プラグ」を「イン」するという言葉の組み立てがとてもわかりやすくそれっぽいです(4以降無線になりますが・・・)。対義語として、PETを切断してネットナビを帰還させることを「プラグアウト」という独自の言葉で表現します。これもわかりやすいですね。「プラグイン」はロックマンが出動する際の熱斗くんの決め台詞としても機能していて印象的な言葉です。
「プラグイン!!ロックマン.EXE、トランスミッション!」
これがまたエンディングでのお約束にもなり、好きな人は多いと思います。
決め台詞といえば、
「バトルオペレーション、セット!!」
「イン!!」
という熱斗くんからロックマンに繋がるセリフが熱いですね。これは公式大会でバトル前の掛け声としても採用されました。いちいち気持ちを盛り上げてくれます。
そうそう、取扱説明書の終わりにはいつも用語集がついていたのが嬉しかったものです。もちろん、ゲームを遊んでいるだけでも言葉がわからなくて困ることはないのですが、例えば作中ではエグゼの意味を教えていないんですよ。これが用語集に書いてあり、「実行プログラムの末尾につける言葉」であるとわかり、「ガッツマン.EXE」といった用例も教えてくれます。作中でも「ガッツマン.EXE」という言葉は出てきますので、説明書を先に読んでおくと「なるほど!」ってなります。なので、説明書を読むのが楽しみでもありました。最近のゲームは説明書がペラペラだったり付属しなかったりして寂しいです。
話がだいぶ広がってきましたが、エグゼ用語は、実在の言葉を多く取り入れ、わかりやすさとリアリティの両立をしていたのがすごいなと思ったわけです。
名前がすごい
お前、まだゲームの中身に入らないんかい!と思われたかもしれませんが、語りたいので語らせてください。
用語がわかりやすいという話をしたあとなので、固有名のわかりやすさにも触れておきたいです。主にはキャラ名とバトルチップ名ですね。
現実世界の主人公・光熱斗。光通信の「光」にネットワークの「ネット」を取ってきたもので、ネットワーク社会を描く作品の主人公として、これ以上なくわかりやすい名前です。「斗」という馴染みのない漢字がむしろ小学生の好奇心を刺激します。ゲームでやたら言葉を覚えるってあるじゃないですか。造語が少ないのでそういうのに満ち溢れています。当時、ネット回線としてはADSLが主流でしたが、もう誰も知らないですよね・・・。
そんな感じで、電子メールに由来するメイルちゃん、でかい男のデカオなど、わかりやすくて覚えやすい名前です。え?やいと?彼女はDASHからのゲストキャラなのでイレギュラーですね・・・。ちなみに、デカオの名字「大山」とやいとの名字「綾小路」は後付です。エグゼ1時点では下の名前のみです。
オペレーターはわかりやすくも個性的で遊び心のある名前が多かったと思います。しかし、ネットナビは本家ロックマンの持つ「~マン」というルールを原則とし、モチーフを示すシンプルな言葉になります。オペレーター以上にわかりやすいのですが、厳しい文字数制限があります。
バトルチップ名が8文字までであり、ナビチップは強化版に「V2」「V3」といった2文字が付与されることから、ナビ名は実質6文字までという制限がありました。さらに「マン」がつく前提だと、自由にできるのは4文字しかありません。これにより、ファイヤーマンがファイアマンに改名されたものと思われます。基本的には本家1からリニューアルしたボスが多いのですが、ナンバーマン、カラードマン、シャークマンなど本家では見られないようなエグゼ独自のモチーフも登場し、デザインの奥行きがあります。
とはいえ、6文字制限は流石に厳しかったのか、エグゼ2以降「V2」「V3」「EX」「SP」「DS」といった強化版を指す接尾辞は、特殊な1文字として表記され、ナビ名が7文字制限に緩和されました。
私はプログラマなので勝手に仕様を推測しちゃうんですけども、1バイト(8ビット)で表現できる値は0~255で、このうち0をヌル終端文字とすれば、残りの255文字が自由に使えます。アルファベット大文字、数字、カタカナに絞れば収まる範囲です。余り部分に固有の特殊文字を割り当てられます。8バイトで8文字を表しているだろう、という予測です。
バトルチップ名も8文字制限の中でうまくバリエーションを出していると思います。ナビ(ボス)だけでなく、ウイルス(ザコ)からもバトルチップを入手できるのが、既存のロックマンの特殊武器システムからエグゼが独自進化した部分かなと思います。バトルチップはだいたい3段階のグレードが存在し、効果と強さがわかりやすい名前がつけられています。だいたい1~3の数字をつける単純なルールがありますが、序盤からよく使うものは個別に名前がつけられることもあります。キャノン→ハイキャノン→メガキャノンなど。キャノン1~3にしないあたり、こだわりを感じ取れます。
ちなみに、ゲームキューブで発売された「ロックマンエグゼ トランスミッション」はV2/V3を廃止したので、グラビティーマン(8文字)が登場しました。本家の特殊武器名をそのまま持ち込んで、アイススラッシャー(9文字)を表現できないから「Iスラッシャー」にするなどバトルチップ名では妥協が見られ、作ってる人の思想が違うんだなぁと思いました。
キャラデザがすごい
電脳世界の独特なビジュアルを表現したわけですから、そこに足をつけるキャラクターたちもまた独特なビジュアルを有します。
従来のロックマンから引き継いだ「モチーフのわかりやすさ」「シルエットの差別化」を考慮に入れながら、「データだから物理法則はいくらか無視していい」という自由な発想を取り入れています。ただ、何でもありにするとまとまり感がなくなるので、原則として「布は使わない」といった基本ルールも確立されます。フォルテやカーネルのマントは例外的に認められたものです。
まず、ロックマンのデザインを見ていきましょうか。モチーフがないので正解を探しにくくデザインは難航したものと思われます。下記の要素が読み取れます。
- 末端の色合いやボリュームを考え直した新しいロックマン
- GBAの表現力に合わせた色の追加
- 黄色のアクセント
- ヘルメットや脇を走る水色のライン
- 熱斗くんと共通の記号として赤いナビマークを持つ
- サイドビューを意識したシルエット
- 尖った後ろ髪
- バックパック
- 戦闘中はフェイスガードをつける
盛り込んでいる要素は多いものの、線は少なくシンプルにまとまっています。形と色で個性付けしていると言っていいでしょう。初期のエグゼは子どもにも描けることを意識したデザインがされているので、その基本形がロックマンのデザインだと思って良さそうです。従来のロックマンシリーズでは、ハードの表現力向上に伴い、キャラデザが複雑化・詳細化していきましたので、エグゼでその流れをリセットした印象がありますね。
シルエットによる差別化は、ロックマン系の画集を眺めるとよく出てくる言葉なのですが、エグゼの場合、戦闘がサイドビューなので、このとき一番かっこよく見えることがゲームとしては最重要です。バトルで待機状態のロックマンを見ているだけでなかなかかっこいいと思います。さり気なくフェイスガードが装着されているのもかっこいい。日常とバトルの二面性を表現しています。
また、オペレーターとナビの関連性を示すため、ナビマークという家紋のような共通記号が取り入れられるのがナビデザインのルールとなっています。ロックマンの場合、光という名字の頭文字Hを記号化したもので、ロックマンのデザインで唯一、左右非対称となるパーツとして良い魅力上げになっています。
ロックマンを見るだけでナビデザインの方法論がなんとなく見えてきましたが、ボスデザインはさらに自由で個性的です。
例えば、ファイアマンは腰が細く、胸から頭が一体化して、とても背の高いデザインです。頭から吹き出す炎など、本家ファイヤーマンから基本要素は継承しているものの、全然違う印象に仕上がっています。エグゼはマス目に区切られたフィールドで戦うため、ロックマンと身長を揃えなくていいという事情もあるでしょう。まさにエグゼ向けに最適化された素晴らしいデザインです。
@wizamanwizaman マス目ゲームだから移動モーションとか心配しなくていいですからね、いろんな制約のあるハードなのにそれが逆手にとれる世界観でしたね。
— 安間マサヒロ (@yassuman) 2016年3月25日
エグゼのディレクター・安間さんからも上記の発言を頂いたことがあります。マス単位でワープする前提にすれば、前後左右に異なるモーションで移動するみたいなことを考えなくていいというのも、自由な発想を取り入れられた要因のようです。エグゼは純アクションではないですからね。
もう1例として、エグゼオリジナルであるナンバーマンを見ていきます。数(ナンバー)というデザインに落とし込むのが大変そうなモチーフですが、むしろナンバーをキーワードにして、色々な記号を組み合わせた面白いデザインにまとまっています。頭脳派というところから、もやしをイメージした細い体ながら、大きな頭脳を想起させる電球型の頭部を持ちます。胸部には電卓のイメージなのか7セグメントディスプレイが埋め込まれています。そして武器としてサイコロを持ちます。要素盛り盛りなのにうまくまとまっていて楽しいです。エグゼ4で再登場したとき、数学のイメージで三角定規を投げるようになったのも面白くて大好きです。エグゼならではのデザインの代表例ではないでしょうか。
他のナビもとても素晴らしいデザインをしているのですが、収拾がつかなくなる予感しかしないので割愛します。改めてエグゼ1のナビを並べて見てください。シルエットの差別化や記号の取り入れ方を意識してみると、めちゃくちゃ面白いはずです。
ドット絵がすごい
グラフィックが綺麗ということは、説明するよりも見てもらうほかないですが、当時の水準として見てもめちゃくちゃ綺麗なゲームだったと思います。携帯ゲーム機でスーファミ相当の美麗な色表現が可能となったゲームボーイアドバンスそのものが衝撃的な存在でしたが、その魅力を知らしめたのがエグゼ1だったのではないでしょうか。
既にタイトル画面がすごいって話をしましたが、そこから先もとにかく綺麗。背景やキャラは細かく描き込まれ鮮やかで視認性も良い。セリフと共に出てくる顔グラは、文字が流れるタイミングに合わせて口パクしますし、放置すると一定間隔で瞬きします。このへんはXも頑張っていましたが、なかなか珍しい作り込みなのではないでしょうか。
バトル中のキャラもとてもかっこよく気持ちよく動きますが、ワープ前提でコマ数を減らすなどの効率化も図られていて、闇雲に作り込まれている感じでもないです。例えば、シャークマンなんて下半身ずっと水中(に見立てたバトルフィールドの下)に潜っていて、遠隔操作のヒレ攻撃がメインなので、本体は全然動かないんですよ。水しぶき表現などが美しいから、本体が動かないことが気にならないんですよ。すごい。
エグゼといえばバトルチップが大量に存在し、それぞれ美麗なイラストが用意されているのも感動ポイントでした。手に入れたバトルチップはデータライブラリで一覧できるという機能面サポートもあり、収集欲が刺激されます。また、バトルチップはだいたい3段階のグレードに分けてマイナーチェンジを用意するのですが、イラストがただの色変えでないことがあります。例えば、キャノン→ハイキャノン→メガキャノンはイラストの向きを反転させ、ショックウェーブ→ソニックウェーブ→ダイナウェーブは衝撃波エフェクトの激しさが増しています。見ていて飽きさせない非常に細かい作りですね。
立体感がすごい
完全2Dグラフィックスでドット絵のゲームなんですが、妙に立体感のある画作りになっているのもエグゼの魅力です。立体感がある、というのは、パース表現がなされていると言い換えてもいいです。
普段移動するマップがクォータービューで表現され、その上に配置されたオブジェクトの裏に回ることも出来ますし、階段や坂道など高さ方向に移動することもできます。一部のインターネットエリアは複雑に入り組んでいますが、基本的には平坦になりすぎない飽きさせない地形、という塩梅です。カメラ向き固定の3Dゲームといった感じで遊べますね。携帯ゲーム機の常識を覆しています。
バトルに関しても、やや俯瞰気味のサイドビューとなり、左右の足が広がって接地しているだとか、ボックス型の上面が見えるだとか、立体的な画作りです。
いずれにしても、めちゃくちゃ絵が上手くないとできないアングルではないかと思います。このあたりはさすがカプコンですねぇ。
音楽がすごい
エグゼのサイバー感溢れるBGMは作風も出来の良さもすごく支持を集めました。ファンサイトで「このBGMが好き」とか語られることも珍しくなく、GBA音源に愛着のある人はだいたいエグゼが好きなんじゃないかと思います。私が音楽の出来の良さを語るには音楽的知識が足りませんが、エグゼはまず「ゲーム音楽」として優秀だと思いますので、その方向ですごさに触れてみたいと思います。
テーマ曲「THEME OF ROCKMAN EXE」がすごいって話は既にしましたが、このテーマ曲のフレーズが、2つ目のステージとなる「学校の電脳」のBGM「RUNNING THROUGH THE CYBER WORLD」に取り込まれています。非常に人気の高い曲です。この曲について、私から安間さんに直接質問を投げたことがありました。
@yassuman コンポーザーにイメージを指示されたのは安間さんでしょうか?エグゼ1でナンバーマンのとこ(学校の電脳)でテーマ曲混ぜたるのが面白いなと思ってました。流星1でも同じく2つ目のシナリオのキグナスステージがテーマ曲アレンジで、何か意図があるんだろうとは思ってました
— ウィザまん(wizaman) (@wizamanwizaman) 2012年10月24日
@wizamanwizaman エグゼ1は全部ジブンですね、2からはシナリオ担当が曲リストを作ることになりましたが、クオリティチェックは自分も関わってました。2話にテーマ曲がきてるやつは自分の指定ですね。
— 安間マサヒロ (@yassuman) 2012年10月24日
@yassuman なるほど、ありがとうございます。確かにエグゼならシナリオから曲考えたほうがよさそうですね。最初のシナリオではなく2話目でテーマ曲使うのが意外だったんですが、話の展開からして、2話目からが「ロックマンというヒーロー」の活躍になるのかなぁとか考えました
— ウィザまん(wizaman) (@wizamanwizaman) 2012年10月24日
@wizamanwizaman 思い出すに理由はふたつありますがそのうちひとつはそれですね。プレイヤーの心理の変遷に合わせた曲の配置としてあれがいいと思ったのです、2話目がいいよねと。
— 安間マサヒロ (@yassuman) 2012年10月24日
@wizamanwizaman 最初に作ったプロモーションビデオのステージが試作を兼ねて作った学校の電脳でそのBGMがプロモーション用に作ったエグゼのテーマ曲だったからです。>理由もひとつ
— 安間マサヒロ (@yassuman) 2012年10月24日
なんでも答えてくれる。ええ人や・・・。
エグゼのテーマ曲は象徴的にあちこちで使われるのですが、エグゼ1作中で初めて用いられたのがこのナンバーマンステージです。1話目となるファイアマン事件は光家を襲った事件でしたが、2話目となるナンバーマン事件は学校が襲われた事件です。自分や家族ではない誰かを守るために戦うヒーローとして立ち上がり、ヒーローとしてのロックマンが誕生した瞬間であるわけです。熱い。ダンジョン系BGMは緊張感が高いものが多いですが、ここに関してはヒロイックに突き抜けていて印象が強いですね。
ゲーム音楽的な演出としては、バトルも語らねばいけないでしょう。
エンカウント時にBGMが停止して、ブワーンというSEとともに画面が真っ白にフェードすることで一瞬にして緊張感を高めます。そして戦闘画面に移ると、激しいイントロを経て、すぐに熱いメインメロディーに切り替わり、すごくテンションが上がります。バトルフィールドに敵が出現→カスタム画面が出現、という流れもイントロがある前提で、気持ちのいい視線誘導とタイミング調整がなされていることがわかります。曲単体でもすごく良いのですが、やっぱりゲームとして完成度の高い体験を提供しているなと感じます。ラスボス戦がいつも盛り上がるのも、こういったバトル音楽演出の力が大きいと思います。
静寂→イントロ→サビの流れによるテンション加速装置は、シリーズお約束のフォーマットとなり、エグゼの戦闘曲を一番特徴づけているのはイントロだと思っています。イントロ聴き比べとかすると楽しいですよ。エグゼ3の人気曲「グレイトバトラーズ」なんかもやはりイントロがとてもキャッチーですね。
戦闘に勝利すると「テレレレテレレレテレッテー」と明るいイントロで始まるリザルト曲「WINNER!」が流れ、イントロが終わったタイミングでリザルト画面が登場します。やはりエグゼはイントロ強い・・・。この曲は1ループがとても短い曲なのですが、シリーズ屈指の名曲だと思っています。イントロは底抜けに明るく「やったぜ!」という気持ちを強めるのですが、メインメロディーの哀愁ある感じがとても「ロックマンエグゼ」らしいと思います。
音楽も語り続けるとキリがないのでこのへんにしておきます。
ちなみに自分のお小遣いで初めて買ったゲームサントラはエグゼ1~3です。魂のサウンドと言える。
カードゲームのアクション化がすごい
エグゼは「データアクションRPG」という独自のジャンル名を採用しています。アクションRPGは死語になりましたね。複合ジャンルであることを示していますが、「データアクション」の部分がバトルシステムを指していると思います。
エグゼのバトルシステムは、マス単位で区切られたバトルフィールド上で、リアルタイムに進行するカードバトルです。カード系のボードゲームとリアルタイムアクションの融合といった方がイメージが近いかもしれません。
横6マス×縦3マスのフィールドは、左半分を自陣、右半分を敵陣として、基本的にそれぞれの陣地内で行動することとなります。位置関係が逆転しないので状況把握しやすいです。陣地という概念が生まれたことで、エリアスチールという陣地を奪って戦況を有利に運ぶ、といった要素が生まれます。
リアルタイムで進行するので、手持ちのバトルチップをいつ交換するのかという問題がありますが、これは単純に9秒程度で満タンになるカスタムゲージを採用することで、ターン制を表現しています。カスタムゲージが満タンになっても勝手にカスタム画面を開くことはないので、バトルチップを使い損ねたみたいな事故を防いでいるのも良いところです。デリートタイムの目安にもなります。
すべての敵の残りHPが明確で、バトルチップの攻撃力も明確なので、「とりあえずこれを当てれば倒せる」という判断がわかりやすくなっています。HP40のメットールに対して、攻撃力40のキャノンで対応するチュートリアルは非常に自然な導入ですね。カードゲームとしての複雑化を避けています。
エグゼのバトルは本質的にはカードゲームがメインと言えます。基本アクション(ロックバスター)が強いとバトルチップを使う意味がなくなるので当たり前ですね。あくまでアクション部分は、攻撃を当てるための位置合わせと、ダメージ調整のできるロックバスター、という位置づけです。バトルチップだけで倒しきれなかった相手はロックバスターで倒せばいい、という調整なので、カードゲームとしてシビアになりすぎないシステムでもあります。後半になれば使えるバトルチップは増えるし、ロックバスターも強くなってくるので、成長したプレイヤーが自分の好きな方法を選べば良いようになります。そのへんはRPG的要素ですね。複数の解法を用意するロックマンらしさをRPGに落とし込むとこうなるのか、といった具合。
カードゲームとして見ると、手札整理というメタゲーム要素があります。30枚というチップフォルダに何を組み込むべきか、どんな組み合わせにすると回転率が良いか、という事前準備があった上で、戦闘中にはどれを次のターンに残すか、ADDで手札を増やすのか、といった判断をすることになります。ADDはエグゼ2以降仕組みが違いますが、手札調整という位置付けは変わりません。
めちゃくちゃ考えないといけないのかというと、わかりやすく強いチップはあるので(パラディンソードとか)、「なんとなく強そうなものを入れよう」「進行に困ったら編成を見直そう」ぐらいでなんとかなるようにはなっています。
バトルチップの中でも、ナビチップはとても強力な切り札であり、フォルダに5枚までしか入れられません。時間停止(よく暗転と呼ばれる)を伴うので、「必殺技が出た!」みたいな演出的効果もありますし、発動時点での位置合わせさえ正しければ確実に攻撃が当たる使い勝手の良いものです。バトルにメリハリがついて良いですね。
必殺技といえばプログラムアドバンス(PA)を忘れてはいけません。ポーカーハンドのように特定の組み合わせによって発動する特別なもので、その組み合わせを探したり、PAを狙ってフォルダを編成したり、という遊びに繋がりました。エグゼ1のPAはまだ荒削りですが、使い勝手の良いガッツシュートのお世話になった人は多いことでしょう。
とまあ、そんな感じで、エグゼは独自の遊び方を構築しつつも、それが難しくなりすぎないようなシンプルさを保っているのがすごいことだと思います。
余談。同時選択可能なバトルチップを決定するチップコードは、フォルダ編成の判断基準となりますが、存在するチップコードの組み合わせがあまりにゲームバランスに直結するので、シリーズの悩みの種にもなりました。また、対戦バランスを考えていくと、位置合わせなど不確定条件を排除したほうがリスクが減るので、暗転チップが強くなりがちという傾向がありました。これらの課題は流星シリーズでも引き続き取り組み、流星3でまとまってきます。エグゼを深く知っておくと流星もまたさらに楽しめると思います。
ロックバスターの再定義がすごい
従来のロックマンシリーズでは、メットールはロックバスター1発で倒せるようなザコです。これがエグゼではHP40となり、ロックバスターの初期攻撃力が1なので、40発当てないと倒せません。しかし、これがあるのとないのとでは大違いです。
既にバトルはカードゲームがメインで、ロックバスターはダメージ調整要素であることは述べました。カードゲーム部分でうまくいかなかった隙間を埋める要素です。従来のロックマンではメイン行動であったロックバスターの位置付けがまるで変わっています。これは弱体化したのではなく、エグゼに合わせて再解釈したと言えます。
従来のロックバスターといえば、画面内に3発までという制限がありましたが、発射して即座に着弾するなら3発制限の中でも高速にロックバスターを連射することが可能であるから、接近して連射しよう、という遊びがありました。
エグゼではロックバスターの弾すら可視化されません。目にも留まらぬスピードで飛んでいるという表現はロックマン的には斬新ですが、画面内3発みたいな制限はできません。かといって遠距離でバスターを連発することが安定行動となっても遊びとしての面白さは劣ってしまいます。そこで、対象との距離によって連射力が変わる仕組みが入ります。近づいた方が連射性能が上がる、というロックバスターの特性を、エグゼ向けに解釈し直しています。これによってリスクを承知で近づいて連射するのかどうか、という判断をプレイヤーに問うことができています。きちんとロックマンじゃん。すごい。
また、ロックバスターは何度も見ることになるので、ヒットエフェクト位置はランダムになっています。見ていて飽きない画作りがにくいですね。すごい。
冒険感がすごい
これまでエグゼは難しくなりすぎないような配慮がされていることを語ってきました。しかし、それは通常進行する「良い子」に向けたものでもあります。物語に沿って進まない「冒険心」を持つ人に対するアンサーを持ち合わせているのもエグゼの良いところのひとつです。
例えば、インターネットエリアを隅々までうろつくと、シナリオ上で倒したナビのV2と遭遇します。撃破するとV3とランダムエンカウントするようになります。とても強いので、気をつけないと通り魔に遭遇することとなりますが、上手く倒せば強力なナビチップが手に入ったりメリットもあるので、チャレンジ精神を煽ります。
また、ウラインターネットと呼ばれるエリアは、とても広大ですがほとんどメインシナリオに絡みません。殺意が高い敵が多いのですが、やはりレアチップや強化アイテムが手に入るなどお宝に溢れています。行かなくてもいいのに、うっかり危ないところに足を踏み入れちゃって、でも「どこまで行けるかな?」と攻めたくなる心をくすぐるのです。
安間さんによれば「出し抜いている感」を出したくて、基本難易度を下げる代わりにウラインターネットを用意したとのことです。下手に柵を設けられたり、安全に舗装された道を歩くより、正規ルートから外れた危険地帯を歩くドキドキ感が好きな人もいるわけです。
ロックマンエグゼのときはコンセプトがDASHとは全然違ったので冒険の没入感とかは違うわなということで熱斗はしゃべりまくるし、シナリオ進行が決まった構造にしたけど、個人的にどっかで冒険感は出したかったのでインターネットでそれをやりました。
— 安間マサヒロ (@yassuman) 2014年2月8日
FC時代どうしてバグ技があれほど熱狂を生んだかというと、製作者すら意図してない未知の領域に触れるワクワクだよね。大人が立てた立入禁止フェンスを越える感覚。安全保証されない世界こそが現代っ子にとってリアルだった。
— 安間マサヒロ (@yassuman) 2014年2月8日
オレはエグゼでマップを描くことはなかったですが、いつもシナリオ担当者には「序盤から中盤あたりの寄り道でうっかりウラインターネットに行っちゃえるようにしといて」と指示を出してました。好奇心が招く
、明らかに製作者の用意したレールを踏み外した感を出せればと。— 安間マサヒロ (@yassuman) 2014年2月8日
また、ウラインターネットでは、特定条件を満たすと隠しボスとエンカウントするようになります。特にイベントはないのですが、それがむしろ得体の知れなさに繋がってワクワクしました。
攻略本でも伏せられていたフォルテの存在はコロコロコミックで明かされました。エグゼ1時点では完全に謎の存在で、全体的に黒ずんでいました。マントで全身を覆っているのがまた謎めいていて魅力的でした。リアルイベントで限定チップを配信するという情報も発表され、何かとレア度の高いフォルテには注目が集まりましたね。
リアリティがすごい
エグゼの世界観はのちに先見性があったと評されるのですが、作中事件のリアリティが高いこともまた世界観を補強していると思うのです。特にエグゼ1のえげつなさはシリーズ随一のものです。
まず、水道などの生活基盤を脅かす事件が多いため、驚異が直感的に理解できます。しかも、犯罪側の行動原理も抜かりなく、特定の目的に沿って狡猾に計画・実行されていることがわかっていきます。
忘れている人も多いと思うので、印象的なものをいくらか紹介します。
ナンバーマン事件
子どもたちの洗脳を目的として、小学校を乗っ取り、WWWの思想を植え付ける教育を施す、という過激な事件です。
主犯である日暮闇太郎さんはWWWとしての思想は持ち合わせておらず、金銭的都合で加担していました。日暮さんはのちに改心して、まっとうな経済活動を見つけ、頼れる大人キャラとして味方につきます。大人キャラの味方は貴重です。すぐに娑婆の世界に戻ってくるのも不思議ですが気にしない。
他作品でWWWにそそのかされて悪事を働いたキャラは、帯広シュンやアネッタがいます。それもまた巧妙に誘導された恐ろしい事件です。
アイスマン事件
水道局を機能不全に陥れた事件です。最初は断水事件として始まりますが、これを解決しても浄水機能が正常ではなく、汚水を飲んで倒れる被害者が出てきます。オフィシャルネットバトラー・炎山の初登場エピソードでもあり、熱斗くんに対して、事件の根本原因を理解せず、断水という表面的な障害だけ解決して被害を拡大させたことを責めるシーンがあります。子どもには責任の重すぎる話です。
一連の事件の犯人は、WWW所属ではないただの水道局員・氷川清二さん。氷川さんは善良な人ですが、息子・透くんがWWWに誘拐され、脅されるままに犯行を続けています。外側から実力による強行突破をせず、計画を立てて内側から破壊するWWWの狡猾さがよく表れています。
また、裏設定として、アイスマンは氷川さんの誕生日プレゼントとして家族から与えたネットナビであり、氷川さんにとって大事な存在です。家族を人質に取られた上に、家族からもらった大切なパートナーで手を汚すというエグい状況、かなり精神的に追い込まれたことでしょう。
水道局には何故か美味しい水ができるアクアプログラムがあり、WWWはそれが最終計画に必要で、この事件を計画しました。水道局を取り戻しても、既にアクアプログラムは奪われたあとであり、WWW的には目的達成しているのです。つまり、水の味が落ちたのです!!(大事なのはそこじゃない)
事件を解決していっても、大きな陰謀が進行していることがわかりはじめたのが、この頃ですね。このあとの事件もまた過激です。
カラードマン事件
エグゼ世界では、自動車は完全に自動運転となっていて、信号機から得た情報で安全に制御しています。色綾まどいは、この信号機を暴走させることで交通事故を引き起こし、偽の対策プログラムを高額で売りつけるマッチポンプを働きます。この時点で手が込んでいますが、これは始まりに過ぎません。
主人公が信号機の暴走を解決して悪徳商売を妨害すると、まどいはその場を立ち去ります。しかし、街全体の信号機を暴走させ、メイルちゃんが乗っているバスを制御不能とした上、爆破させようとします。このときのロールちゃんが色っぽいことで有名。カラードマン許さないぞ。
これまでWWWは最終計画の準備として各犯行に及びました。それをことごとく邪魔してきた主人公のことを明確に驚異として認識し、反撃してきたのがカラードマン事件なのです。子ども相手だろうと、真っ向から勝負せずに周囲の人間を攻撃するあたり、本気で悪意の塊であることが窺えます。
エレキマン事件
エレキ伯爵が科学省で行われるパーティに現れ、内部から発電所を無力化した事件です。これによりエレベータは機能停止、パーティ参加者は地下会場に閉じ込められ、空調設備も効かないことでじわじわと窒息死に近づきます。この事件の真の狙いは、エレキプログラムの奪取ですから、熱斗くんの家族を含めパーティ参加者は巻き添えです。カラードマン事件より確実に人命を奪いに来ています。
また、発電所のシステムを乗っ取ったことはエレキマンに有利に働き、文字通り無敵のエレキマンにロックマンは苦戦を強いられます。ゲーム的には「電気だからエレキマンだろ」ってところなんですが、WWWがエレキマンを仕向ける裏付けがあるのもまたリアリティの高さに貢献しています。
OSSでは、このあとに流星のロックマンと出会うオリジナルシナリオが挿入されます。WWWとの全面対決を前に熱斗くんを勇気付ける内容となっています。幼馴染と肉親が狙われたのだから、このまま前に進んでいいのか迷うのも無理もないです。ちなみに、熱斗パンチがミサイル100発分の威力を持つこともOSSで明かされました。物理で殴ったほうがいいのでは。
カラードマン事件とエレキマン事件は、人命をなんとも思っていない手段の取り方が恐怖を際立たせます。他作品では、エグゼ3のフレイムマン事件がとても外道の働きで印象的です。悪意の強い敵は輝きますね。
初代WWWは怖いんです。陽気なカレー屋さんじゃないんです。
UIがすごい
あまり着目されないことですが、UIも完成度が高いです。
現実世界でも電脳世界でも、スタートボタンを押すとまったく同じメニュー(サブ画面)を開くことが出来ます。いきなり画面全体を切り替えるのではなく、中央にプレイヤーキャラを映したまま、画面の端っこに各種UIが並ぶというスタイリッシュさ。繋ぎがあまりに気持ちいいので、無駄にスタートボタン連打したものです。
ちなみにメニューを出すボタンは、エグゼ4以降はセレクトボタンに変更されています。おそらくイベントスキップ暴発を防ぐ意図でしょう。
フォルダ編集
チップフォルダ編集はこのゲームの要となる機能ですので、ここが不便だと困ります。
- 左ボタンでチップフォルダ、右ボタンでリュックに切り替え(それぞれカーソル位置を保持)
- スタートボタンで豊富なソート機能を提供
- LRボタンでページ送りに対応
これらの機能が標準装備されていて、1作目にして快適に遊べました。ボタンを押してからの即応性もバッチリでしたよね。アイテム選択がなんとなくストレスになるゲームがあると思いますが、そういうゲームと比べてみれば、エグゼのフォルダ編集の洗練され具合が身に染みることでしょう。
カスタム画面
各バトルチップには専用のアイコンがあり、これを並べることで手札をひと目で把握できます。
カーソルを合わせたバトルチップは詳細が出ますが、これも
- 名前
- イラスト
- チップコード
- 属性
- 攻撃力
といったパラメータ表示に留めることで画面がすっきりしていて、説明文が読みたければRボタンで呼び出せる、という段階的な情報整理がされています。
バトルチップは5枚まで選択可能で、選択済みのものは上から順にアイコンが並ぶようになっています。一部だけキャンセルするとか入れ替えるみたいな複雑な操作はなくて、単純なスタック構造になっています。選び直ししたければ1枚ずつキャンセルするわけですが、Bボタン1回で済むので手間ではありません。
ちなみに、ADDの仕様はエグゼ2以降で変更されます。UI的には手札一覧が3列から2列に減るのですが、そのスペースでチップコードを表示することで、一覧表示だけ見て同時選択可能なバトルチップを判断できるよう改善されました。
バトル画面
チップ選択後、バトル再開となりますが、このレイアウトも非常に素晴らしい。
- ロックマンのHPを画面左上に表示
- ロックマンを移動させても見失わない
- 敵のHPは敵の位置に追従することで、どの敵が残りHPいくつか迷わない
- 個別に位置調整されていてHPが敵の顔など大事な部分を隠さない配慮もされている
- 次に使用するバトルチップ情報は、画面左下に配置
- ロックマンを移動させても見失わない
- HPと合わせてプレイヤーに関する情報は左側にまとめられていて視線移動の負担が少ない
- カスタムゲージは画面上部に大胆にどでかく表示
- 余所見していても視界の隅にカスタムゲージがなんとなく見える
- ゲージが大きく動くため、進行速度が体感的にわかる
- ゲージがたまると専用SEが鳴り、ゲージ全体の色が変わって専用アニメーションまでするのでゲージがたまったことに気づかないことがない
上記は機能面に対する私の解釈ですが、
ロックマンエグゼのバトルUI。ロックマンは超強ヒーローであり、いかに敵を瞬殺するかしか眼中にないので、視認頻度の高い自キャラ頭上にチップ、敵キャラ傍にHPをおいてます。自分のHPなんぞはよほどしくじった時だけ気にすればいいので画面左上。格ゲーみたいに自分と敵が平等には扱われません
— 安間マサヒロ (@yassuman) 2014年3月3日
このような考え方から生まれたようです。
こういったUIデザインはエグゼ1の時点でベースは出来上がっていて、のちの作品でも大きな変更はありませんでした。すごいことだと思います。
GBA本体同時発売なのがすごい
これだけ褒めちぎってきたエグゼ1ですが、GBA本体と同時発売だったというのも驚きです。初めてのハードで、新しいシリーズで、こんなに完成度高いなんて・・・。パッケージもグラフィックもサウンドも何もかも凄まじかったのが、どれだけ当時輝いて見えていたのか、少しでも伝わっているといいなと思います。
ポケモンのGBAソフトは登場が遅れたこともあり、それまでのGBAを支えた代表的なゲームがエグゼシリーズなんですよ。一時代を築き上げましたね。
通信できるのがすごい
通信ケーブルはポケモンをヒットさせた重要技術ですが、実態としてうまく機能したゲームは多くなかったと思います。友達で持ち寄って遊べるロックマンというのも貴重ですが、それ以前に通信ゲームとしての存在感が大きいのがエグゼでした。
しかも、エグゼはリアルタイムバトルを実現しました。携帯ゲーム機としては画期的です。ニンテンドーDSでは色々あったと思うのですが、GBA時代に成し遂げたのは偉業というほかありません。
WiiUのバーチャルコンソールでは通信機能はオミットされているのが残念です。
リアルイベントへの吸引力がすごい
通信機能を利用して限定チップ「フォルテ」をイベント会場で配信したことで話題になりました。ポケモンのミュウやセレビィを参考にしたのではないかと思います。フォルテはウラインターネットで戦うことはできますが、入手できるチップはドリームオーラ3であり、そもそも何故ドリームオーラが使えるのかなどすべてが謎に包まれていて、子どもたちを魅了しました。私が初めてイベントに出ようと思ったのもフォルテのせいです。ほんと、私の「初めて」がたくさん詰まっているなエグゼ1は・・・。
また、通信対戦による公式大会も行われ、エグゼのイベントは毎年ヒートアップしていくこととなります。1人用ゲームだとできない盛り上がり方だったのではないでしょうか。その基礎を1作目で作り上げたのはやはりすごい。
ちなみにメインとなったイベントは、次世代ワールドホビーフェア(WHF)でした。当時はコロコロコミックが子どもたちの強い支持を集めていて、そこで特集された色んなゲームやホビーが一度に集まるという大きなイベントがWHFでした。のちにロックマンがWHFから撤退して、WHF自体も縮小していったのは寂しかったですねぇ。
最後に
ゆるゆると「エグゼ1って良いよね」って話をするつもりが、書き始めたら全部褒めたくなってしまいました。これでも時間切れで内容2割ぐらい削りました。読み応えがあったら嬉しいです。絶対、他にもすごいところがあるので、みんなもエグゼ1を褒めてみてください。
そういえば、エグゼをみんなで遊んで振り返る合宿をエグゼ5までやっていたのですが、それからなんやかんや予定を立てられず数年が経過してしまっています。最初からやり直したい気持ちもありますが、ひとまずちゃんと完走したいです。
本記事掲載の動画は、WiiUのバーチャルコンソール版です。Switchが快適すぎて今WiiUに触るのはだいぶしんどい気がしますし、エグゼ3以降の2バージョンを別々に買うのか?地味に高くない?という悩みもありますし、Wiiショッピングチャンネルが終了したからWiiUもそう遠くないうちに終わるんじゃないかという不安もあり、そろそろエグゼコレクションがほしいところです。